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なにかあり/とくになし

10月3日深夜、トークセッション・ウィズ・運転手さん

恵比寿tenementでの
第一回「GARDEN」無事終了しました。


たくさんのご来場ありがとうございました。
DJのみなさんおつかれさまでした。


第一回ということは
第二回があるつもりでして、
というかこのまま月例にするつもりでして、
近日中にお知らせします。


夜2時をまわって
店を出て
タクシーに。


トランクを開けてもらい
レコードとカートを積み込む。


「阿佐ヶ谷方面まで」
「どうやって行きますか?」
「こっち行ってあっち行ってこう行ってください」
「はい、ところでお客さん、今積んだのは楽器?」
「いや、レコードです」
「レコードって、あのレコード?」
「そのレコードです」
「レコードをどうすんの?」
「レコードをかけて聴くんです」
「あの店で?」
「お客さんを相手にレコードをかけるんです。DJってことです」
「へえ、今どきそんなのがあるんだねえ」
「まあ、特殊な集まりかもしれませんけど」
「あたしもレコードは一千枚ばかし持ってましたよ」
「へえ」
「惜しいことしたな。もう人手に渡っちゃったんだけど」
「古いやつですか?」
「そうです。あたしは洋物が好きで」
「70年代のとか?」
「もっと古いのもありますよ。ポール・アンカとかニール・セダカとか」
「そりゃまた古いですね」
「大好きだったな、ニール・セダカは」
「あの頃で千枚って言ったらすごいんじゃないですか?」
「食事を我慢して買ってましたね、あと、あれも好きだったな」
ビートルズ?」
「いや、もうちょっとあとの……クロコダイル!」
「クロコダイル?」
「それから、カンペーターズ」
カーペンターズ
「そう、それ!」
「クロコダイルはひょっとしてエルトン・ジョンの『クロコダイル・ロック』?」
「そんな感じ! 好きでしたねえ。でもほら、機械がなくなっちゃったから」
「プレーヤーが」
「そう。それで知り合いにレコード預けてたら、いつの間にかなくなってた」
「惜しいですね」
「しかし、あたしも持ってることは持ってたけどDJってのはすごいね」
「すごくないですよ」
「ただ好きな曲をかけてるだけじゃダメでしょ」
「ダメじゃないですよ、遊びなんだし、運転手さんだって出来ますよ」
「センスっていうのが要るんじゃないの?」
「それは聴いてるひとが決めればいいんですよ」
「そんなもんかねえ」
「運転手さんの“この曲が好きだ!”ってのが伝われば、こっちも気持ちいいですから」
「あー、ホント、千枚惜しいことしたな」
「こうやって話してるのがすでに運転手さんのDJみたいなもんですよ」
「おもしろいねえ」


車がどこかの通りを左に曲がったあたりで
酔いがまわって無性に眠くなり
家の近くになったら起こしてもらうよう頼んで
そこから先は
黒い奈落の底へ
あきれるほどすっと落ちてゆく。


東●無線タクシーのおっちゃんが
いつしかうしろのトランクに積んだ
ニール・セダカカーペンターズを取り出して
制服のままで飛び入りDJをしてくれたら
どんなに最高だろうなんて思いながら……。


運転手さんに起こされて車を降りると
月が異様なほど明るかった。


中秋の名月であったのだ。