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なにかあり/とくになし

彼女と小さなメモ帳とばらばら

昨日の話のつづき。
寺尾紗穂@下北沢ラ・カーニャ
ゲストにベーシストの伊賀航。


遅れて会場に着いたこともあって
ステージ真横の席から見た。


彼女がピアノに向かうと、
というか
彼女はピアノに向かってしか歌わないので
ぼくの席からはうしろ姿しか見えない。


「早くに予約した意味がないじゃないか」と
ツマには軽く小突かれた。


よかったことは
彼女がライヴのときに必ず使用している小さなメモ帳の中が
おぼろげに見えたこと。


もちろん字までは見えないが
その文字の配置が
思いつきの自由な散らばり方を表しているようで、
“覗き”に近い行為だと思いつつ、
しばし目を凝らした。


彼女の友人であり
歌詞をしばしば提供している都守美世さんから送られてきた
新しい詞に曲を付けた
まだタイトルのない曲を寺尾さんは歌った。


その歌詞が
帳面に新しく書き込まれたものであることを証明するように
もう片方のページは
まだ真っ白だった。


その小さな空間は
そこに何かまた
誰も知らない大きなものが
生まれるのだという未来を保証する。


なんだかわからないが
ぞくぞくする。


アコーディオンを抱えて歌った2曲は
星野源の「ばらばら」と
「竹田の子守唄」だった。


以前は
「ばらばら」の歌詞に出て来る「クソ」が歌えないと言っていた彼女が
今日は口をやわらかく開けてその二文字を歌った。


ときどき
こっちがどぎまぎするほどの度胸を
寺尾さんは見せる。


伸び縮みするアコーディオンの音を聴いていたら、
アルバム「キー・オブ・ライフ」でも
それほど気に留めていなかった
スティーヴィー・ワンダーの「ヴィレッジ・ゲットー・ランド」を思い出した。


めかしこんだ発表会というよりも
さりげない近況報告に思えたライヴの雰囲気に
深く呼吸をととのえるようなアコーディオンの音は
よく似合っていた。