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なにかあり/とくになし

猫背を伸ばして

押切蓮介猫背を伸ばして」(GAコミックス)は
まったく愉快なお話ではない。


胸の真ん中の下あたりに
ぐりぐりっとめりこみそうな一冊だった。


「痛い」なんてひとことでは済まさないですよ。


ゲーム少年だった時代の回顧録「ピコピコ少年」(太田出版)を読んでから
「猫背を伸ばして」に進めば、
そのゲーム少年が成長して、
漫画家として何とかデビューしてからの話としても読める。


「ピコピコ少年」は
ぼくよりもこいつが読んだ方がいいと思い
ハイファイのフジセに貸した。
その反応がこちら


「猫背を伸ばして」は、くらい。
そして、くるしい。


漫画家としてデビューした現在は
太く重たい描線で、
そして過去の痛ましい記憶は
細くリアルに描きこまれ、
それらはさまざまな局面で交錯する。


どっちがどうだというのではなく
そうしなければ気が済まなかったのだろうという心持ちが
伝わってくる。


デビュー直後の漫画家の
苦労と苦悩と妄想が入り交じる回顧録という意味では
福満しげゆき僕の小規模な失敗」(小規模な生活、ではなく)にも近いが、
比べてみると
作品としての仕上げ方という意味では
福満さんの方がずっと商業的な脚色(あくまで、比べてみれば、の話)があったとわかる。


押切さんがヤンマガで連載していた「でろでろ」は
初期の数本が最高だったという印象がある。


ところが、
世評は逆で
人気投票では最下位ばかりだったという事実も描かれていた。


長年飼っていた黒猫が亡くなってしまったのに
合コンに出かけてしまう話は
ひきょうなくらい
ぼくの心を震わした。


40歳くらいになったら
漫画ゴラク」かなんかを
ガハガハ笑いながら読んでる中年になっているはずだったんだが、
押切蓮介が克明に描く
生きるくるしさに共鳴してしまうのはどうしてか。


「猫背を伸ばして」には
「いやだ」と言えない何かがある。
読み返す気にはなかなかならないが
手放したくもない。