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なにかあり/とくになし

探しもの

今にも雨が降り出そうとする渋谷、
急ぎ足で駅ビルに駆け込もうとしつつ、
このところ
目はあるものを探している。


いつもおおぜいのひとでにぎわっているハチ公口の裏側にあたる
宮益口(宮益坂に向かう出口だからついたそっけない名前)で
マチュアパフォーマーたちが
頻繁に演奏するようになったのはいつぐらいからだったか。


思わず足を止めたくなるような瞬間には
残念ながらあまり出会えてない。


それがある夜、
駅ビルの軒下で、
思いがけないものを見たのだ。


“もの”と言っては失礼だ。
暗がりにうずくまっていたのは
4人の女性だったから。


4人の女性が
地べたに置いた一枚の紙を覗き込んでいた。


さらによく見ると
それぞれ口にフルートを当てていて
4管で音合わせをしていた。
彼女たちが見ていたのは
楽譜だったのだ。


音大の学生さんだろうか?
それともどこかのオーケストラの度胸試し?


フルートの奏でる上等なハーモニーと
夜の渋谷の片隅に円をなしてうずくまる若い女性たち、
そのギャップが
ぼくをドキドキさせた。


彼女たちがパフォーマーだとしたら
その後は当然のように立ち上がって前を向き、
通行人を相手にフルートを吹いたに違いない。


だが、
そんなありがちな発表会よりも、
ぼくが見た一瞬の光景の
世間に対して背を向けて美しい音を出す彼女たちの方が
違和感というか
はるかにドキドキ感をもよおさせる。


演奏を見せてることより
顔すら見せてないことの方が
ひそやかに興奮出来るだなんて
こりゃいっちょまえの変態じゃわい、おれ。


今夜ももちろん
彼女たちはそこにはいなかった。


阿佐ヶ谷駅からは
本格的に降り出した雨を避けるようにバスに乗り、
いつもより早く家に着いた。


ツマが点けていたラジオからは
NHK第一放送で隔週火曜にやっている
亀渕昭信さんの番組が流れていた。


ドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」に続けて
亀渕さんは
トノヴァン(加藤和彦の愛称)のファーストから
「ぼくのそばにおいでよ」を番組の最後に選曲し、
加藤和彦をいさぎよく追悼した。