そしてブログはつづく
本日で
当ブログも
1500日。
少し前から
ブログの1500日目には
これを書こうと決めていた。
星野源「そして生活はつづく」(マガジンハウス)
星野源にとって“生活”という言葉がとても大切なものであることを知っている。一見、それは“日常”という言葉で置き換えてもいいように見えるが、ちょっと違う。星野の書く文章に“日常”は感じない。たぶんぼくにとっては“日常”という言葉は名詞に思え、一方、“生活”には動詞を感じるからだろう。だってほら、“生活する”とは言うけれど、“日常する”なんて言い方はしないもの。
ひとたび“生活”を動詞として意識すると、景色がおかしくなる。日々当たり前のように過ぎて行く時間や、他人や自分のふるまいが、たちまちそれぞれ動く意思を持って動きまわる“生活だらけ”に見えてくるからだ。
星野源がこの本で書いていることは、まさにその“生活だらけ”の世界であった。そこでは、人間だけでなく、部屋や服といった無生物も生活している。脳や胃や腸といった体内器官も生活をしている。あるいはかたちを持たない思い出や夢までもが、自分とは関係ないかのように生活している。それぞれに生活するという意思を持って主張を始める。
ゆうべ確かに置いたものが今朝には必ずなくなって、マイケル・ジャクソンのグッズばかりが増えてゆくという生活。
コインランドリーの中に自分の洗濯物と一緒に誰のものかわからないブラジャーが大量に投げ込まれているという生活。
絵心に先天的に欠けているのか、日本地図を絵に描くと必ず西日本が液状になってしまうという生活。
それでいて星野が書くのは、ああ、だからこの世はままならないねといううしろ向きな嘆き節でも、退屈な毎日をおもしろおかしく見ているんだよおれは的な上から目線のたくらみでもない。
星野は、間抜けなほど率直に日々と向きあい、自分なりに解決をしようと試みる。この本を読むと、それは幼いころから変わっていないということがわかる。小学生のころ、笑うという行為のかわりに歯を食いしばって顔を真っ赤にしていたという記述は、その最高の例だ。
その必死さは、彼を翻弄し、脅かし、追い立てる多種多様な“生活だらけ”に立ち向かっていることの現れなのだ。だが、その苦しみは、他人には見えないしわからなかったのだということも、すごくよくわかる。そして、そんなことをかなしく思う顔は、他人にはおかしな顔に映るだろう。
サケロックの曲を初めて聴いたのは、もう7年くらい前になる。「七七日」や「みんなのユタ」を聴いて驚いたのは、演奏のアイデアやテクニックが年齢や見かけに見合わないということよりも、どうしてこの連中はぼくの考えていることがわかるのだろうというものだった。
それは超能力とか前世とかそういうことではなくて、正確に言うと、ぼくの考えそれ自体が読み取れているわけでもなくて。たのしさやうれしさ、いそがしさに隠れて自分ですら見つけ出せずにいるかなしみやせつなさのありかを勝手に探り当てられた、とでも言うべきものだ。
「夕陽を見てると泣けてくるね」とか「会えなくてさみしい」といった死ぬほどありきたりの言葉ではなく、というか言葉すら使わずに、思いがけない感情の高ぶりを突き止め、ちょっかいを出してくる。
今考えれば、あれは、サケロックによって勝手にぼくの中の“生活”が発動してしまい、感情が反乱しだすという体験だったのだ。
その7年前から、この「そして生活はつづく」まで、星野源が自分の名を冠した作品の中でやっていることは音楽でも文章でも一貫していると断言出来る。
たとえば、「腹を割って話そう」なんて言い出すやつが世の中にはいる。そういうときに、「腹をパカッと割ったら痛いじゃないか」と答えられる感覚、その痛みを痛いと正直に思える感覚の方を信じる。そしてぼくは、そういう感覚が、きっと星野源の中にもあるのだと勝手に信じているのだ。
「そして生活はつづく」は、ぼくが信じて生活してきたことのすべてを、もう一度信じさせてくれる本だった。
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星野源くんには
ぼくが05年にインタビュー集
「20世紀グレーテストヒッツ」を刊行したときに
「クイックジャパン」誌上で原稿を書いてもらった。
そのときのお礼を
いつかしたいと思っていたので
いつものブログのようではなく
文章らしく書いてみた。
今日ここで書いたことがお礼と言えるかどうかは別として
「そして生活はつづく」はいい本だと
とにかく書いておきたかったのだ。
以上!
さて、
上にも書いたけど
当ブログも開始から1500日。
実は
ちょっと前に4周年という節目もあったのに、
不覚にもまったく忘れていた。
というわけで
本日このブログを読んでくださった方で
ご希望の方に松永良平が制作したCD−Rを進呈します。
今日は記念日なので
なぞなぞもなし。
一応区切りとして1500回なので
15名様先着ということで。
(ご応募ありがとうございました!)
では
明日からまた
よろしくお願いいたします。