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なにかあり/とくになし

その未完に祝福を

迷っていたヤン富田・ライヴ@日本科学未来館行きを決めさせたのは
結局自分だった。


アストロ・エイジ・スティール・オーケストラのアルバムの中で
お気に入りの一曲「ミューザック・オン・ザ・ムーヴ」を
大音量で聴いたのだ。


あまりの気持ちよさにくらくらして
こんなに素晴らしい音楽を創造してるひとの本気に
つきあわないのは失礼だと自分で自分に説教して
すぐにチケットを押さえた。


押さえてみてわかったのは
なんだ、
やっぱりおれは最初から行きたかったんだということ。


自覚というものは
ときどき遅れて現れる。


開演直前に着いたが
全席自由という太っ腹なシステムのおかげで
右側袖の最前列に席を取ることが出来た。


さて肝心の内容だが、
そのいちいちを記すより、
ぼくの心に留まったヤンさんの発言だけ
書き留めておくことにする。


なお発言は
おおむねうろ覚えです。


ヤンさん発言1
「今日は本気です。本気でやっていいですか?」


ヤンさん発言2(自身の脈拍を使ったバイオフィードバック音楽に対して)
「これこのままだとずーっと終わらないんで」


ヤンさん発言3(バイオフィードバックシステムの準備をしながら)
「機材のセッティングをするところから
 すでに音楽は始まってますから」


特に好きなのは2と3だ。


たとえば2。
自分の脈拍を使った音楽が終わるということは
自分の死を意味しているジョークだと思うのだが、
そこにあるのはニヒルな態度ではなく
生きるという意思だった。


そして3。
遠足は家を出てから帰るまでが遠足です。


このひとにとって
退屈なだけの退屈や
静寂なだけの静寂なんて存在しないのだろう。
嬉々としてセッティングに取り組む姿を見ているだけで
しあわせな気分になる。


そしてその姿は
本当の音楽とはもっと巨大で無限のもので
楽曲というかたちをとって現れるのはごく一部に過ぎないという事実を
教えてくれる。


そしてまさかまさか。


今日のコンサートまでもが
予定時間をはるかに超過し
予定曲目を数曲残して未完に終わったのだった。


本当の全貌は
いったいどれくらい続くはずだったんだろう?


ヤンさん発言4
「必ずこの続きをやります」


その未完に祝福を。


終演後、
来ているはずの知り合いを探そうかとも思ったが、
やめておいた。


ぼくも今夜は
未完のままでいたかったのだ。