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なにかあり/とくになし

しあわせだなあ、これを聴いてるだけで一番しあわせなんだ

しあわせだなあ
これを聴いてるだけで一番しあわせなんだ
ぼかぁ、死ぬまでこれを手放さないぞ
いいだろう……?


って何を血迷って加山雄三ふうに告白しているのか。


ボブ・ディランが68歳の生涯で初めて発表したクリスマス・アルバム
クリスマス・イン・ザ・ハート」を聴いていると
本当にそういう気分になってしまうのだ。


以前に
ハイファイのお客さんから
興奮気味に進言があったという話をここに書いているが、
CDに遅れること一ヶ月ほど、
ようやくリリースされたアナログLPを入手。


笑ってしまうかなという不安は
一曲目に針を落とし、
「ヒア・カムズ・サンタクロース」でディランの声が出て来た瞬間に
軽々と払拭された。


確かに
チップマンクスかと思ったという指摘はうなずける。
正確に言うと、チップマンクスが
おとな(老人)になったような声なのだと思う。


しかし
それだけではこの声は心を打たない。
おなじみのメロディを
時代を変えた巨人が歌うという落差の衝撃は
音楽そのものの感動とは実は関係ない。


おそらくきっと
ぼくたちはこのディランの声を
自分の人生のどこかであらかじめ知っているのだ。


それは
まるで出来心の万引きを見とがめ
やさしく諭す駄菓子屋のおじいさんの声のようであり、
不器用で頑固な生き方をしてきたために
一般的なやさしさの表現を知らないが
お正月だけは「お年玉やろうか」と
孫に近づく無骨な祖父の声のようでもある。


ときどき
痰がからんだキャプテン・ビーフハートみたいな
ささくれた歌声になってしまったとしても、
聴く者の頭をなでようとしている姿勢に変わりはない。


ひとりで聴いたら
さびしく強く生きた祖父のことを思い出して
あやうく泣いてしまうかもしれないな。


サッチモが歌ったディズニー・ソングのレコードが
歴史に残ったように、
ディランの歌うクリスマス・アルバムも
2050年とか2100年になっても
聴かれ続けていてほしい。


一家に一枚ディランを置くなら
ぼくはこのアルバムがいい。