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なにかあり/とくになし

君の友だち

買付から帰ってきて
パラパラと「週刊文春」をめくっていたら
キャロル・キングジェームス・テイラー
一緒に来日するという記事を見つけた。


「文春」的には小さなニュース扱いだが、
その小ささによって
逆に目を疑う「ぎょっ」というおどろきが増した。


詳細はこちら
英文だが、こちらにも。
チケット発売は今週末。


ワールド・ツアーの正式名称は
「トルバドール・リユニオン」というものだが、
日本語で意訳すれば
要は「君の友だち・ツアー」といったところだろう。


キャロル・キングが書き、
ジェームス・テイラーが大ヒットさせた曲が
「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」
すなわち「君の友だち」。


ついさっきまで
「君の友だち」というタイトルで
実はまったく別のことを書こうと思っていた。


車椅子で
片手の動きも困難という不自由なからだで
我が身を刻むような歌をつづるシンガー・ソングライター
ヴィック・チェスナット


その厳しさ、鋭さが
正直言って重たく感じることも多いのだが、
今年2枚目のアルバムであり、
前作「オール・ザ・カット」から
わずか一ヶ月後のリリースとなった新作
スキッター・オン・テイクオフ」は
すこし印象が違った。


なんと
新作はジョナサン・リッチマンのプロデュースなのだ。


ジョナサンは
ヴィック・チェスナットのことをとても気に入っているらしく
たびたび全米ツアーの前座に彼を起用している。


2005年の秋に見たジョナサン
彼と一緒だった。


ジョナサンの前座だからと言って
ヴィック・チェスナットの音楽が急に明るくなったりもしないし、
ジョナサンもヴィックの放つ重たさに引きずられたりしない。


わかるのは
ふたりとも不器用なほどに率直で、
おたがいに好き合っているから
よけいな干渉はしないんだろうなということだった。


ふたりにとって初めての共同作業となったこのアルバムでも
ジョナサンは何か特別なことをするでもない。
ドラマーのトミー・ラーキンスとともに
ちょっとだけ演奏に参加もしているが、
何か細工をしようとしているふしはない。


ただヴィック・チェスナットのそばにいる。
ジョナサンがついている。


そのことが
彼の凍てつく歌を
いくぶんやわらかくして、
ヒリヒリとはしているが
いつもよりずっと温かいものを感じさせてくれる。


1966年、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの
アルバムのレコーディングで
音楽的なことは何も指示しなかったアンディ・ウォーホールだが、
ただブースの向こうにいる彼がバンドを見ているだけで
異様な緊張感が生まれた。


ジョナサンがこのアルバムでやったプロデュースとは
敬愛するヴェルヴェッツのアルバムで
かつてウォーホールが行ったことの
緊張を弛緩に、
不安を安堵に置き換えるということなのかもしれない。


肩を組んで
顔を寄せ合って
仲の良さをこれ見よがしに見せつける代わりに、
ジョナサンは
何もしないことで
ヴィック・チェスナットをプロデュースした。


ジョナサンが
他人のアルバムをプロデュースしたのは
ぼくの知る限り、
これが初めてだ。


ぼくの書きたかった
「君の友だち」は
そういう話だった。