紙を切る、獄を見る、本のつづきを読まずに済ます
昼間、
取材用の資料に届いたCDを聴いているうちに
あまりに素晴らしいので耳も脳も奪われ
仕事が手につかなくなる。
シンプルなデモテープなのだが
そのむきだしの音楽に
心がおぼつかなくなるのだ。
しかたないので
紙を切ることにしよう。
髪を切るんじゃなくて
紙を切る。
なぞなぞに正解した方々に送るCDのために
紙を切る。
陽が暮れてから渋谷に出かけた。
中央線が中野に停車したとき、
線路脇の看板がふと目に留まった。
酒屋さんの前掛けと思しきものが見える。
その藍染めの中央には
白い墨文字で大きな○。
問題はその○の中の一文字。
獄
それは
中野に昔存在した
中野刑務所の跡地(現在は「平和の森公園」)につくられた
刑務所作業製品展示ルームの広告看板だったのだ。
そのショールームで売られている
「獄」の字の前掛け。
なんなんだろうなそれは。
ギャグのつもりなのか
ひらきなおりなのか
それともまったくちがう何かなのか。
たとえば、みせしめ。
世の中にはまだわからないことが多い。
新宿駅で乗り換えるとき
ツマと別々の席になったので
友人からもらった文庫本を読むことにした。
打海文三「ぼくが愛したゴウスト」(中公文庫)。
読み始めて1行で引き込まれた。
2行読んだら時間の感覚がなくなった。
3ページ読んだら電車から降りたくなくなった。
それでも何とか降りることが出来たのは
渋谷まで来た目的が
あるライヴを見るためだったからだった。
ゆらゆら帝国×ヨ・ラ・テンゴのライヴが行われているO-eastの
道をはさんで向かい側にある7th Floorで
杉瀬陽子さん、
轟渚さん、
寺尾紗穂さんのライヴを見る。
そうでなかったら、
きっと一晩中でも
ぐるぐる山手線を回り続けたかも。
素晴らしい音楽で
強引に本から引き離してもらったおかげで
明日も「ぼくが愛したゴウスト」のつづきを読むことが出来る。
初めて見た轟さんの
歌と歌う姿も
ちょっと忘れられないものだった。