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なにかあり/とくになし

馬場さんのプレゼント

恵比寿tenementでのイベント
「encore!」今回もつつがなく終了いたしました。


寒いなか足を運んでいただいたお客さま、
素晴らしいレコードをかけていただいたDJのみなさま、
心地よい場所を提供していただいたtenementスタッフのみなさま、
ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。


ハイファイを閉めたあとで
遅れてtenementに着くと
ちょうど馬場正道さんがお店に入ってきた。


日本各地及びアジア、
そして非ポップス文化圏のレコードを探し求めてやまない
偉大なる若きレコード重病患者。


買っているレコードがすごいということはもちろんだが、
背の高い行者のようなルックスと物腰をした彼が
知らない国の知らないレコードにときめいて
わずかにほほえむ、
その大胆な行為と
じわっとしつこい熱気のあふれ方が
ぼくは好きなのだ。


どういうわけか
ぼくは熱心なアジアものコレクターでもないのに、
馬場さんには
何かをいただいたり
借りたりすることが多い。


今日いただいたのは
意外なものだった。


「家の親が処分しようとしていたものなんです」
そう言って馬場さんが差し出したのは
一冊の本。


医家芸術」。


薄い「文芸春秋」みたいな装丁の本で
表紙には「文芸特集号」とある。


どうやらこれは
医業にかかわるひとたちの趣味を披露する定期刊行物であるらしい。
馬場さんのご両親が
医療関係の仕事をされている関係で
家に毎回2冊送ってくるのだという。


軽いエッセイ、小説、旅行記、俳句詩句の類から
創作落語まである。
一応、落語のネタも医療がらみらしいのがおもしろい。


だが、
もっと問題なのは作品よりも
そのかかわっているひとたちそのものだった。
馬場さんに巻末の執筆者リストを見せてもらって
絶句した。


なんと
90歳のお医者さんが2人もいるだけでなく
80代はざら、
一番若い執筆者でも70歳。


つまりこれは平均年齢80歳を超えたひとたちが
大真面目に作っている同人誌なのであった。
おそらく日本の同人誌としては
これは最高齢のものになるのではないか。


さらにおどろくべきは
巻頭につづられた一文。


この雑誌、
1953(昭和28年)に創刊され、
現在通巻597号を数える。
ほぼ月刊のペースで出し続けられているのだ。
なんなんだその労力は。


巻末をパラパラと見たら
この「医家芸術」の創刊者は
かの式場隆三郎博士だと書いてあった。


式場隆三郎博士と言えば
門前仲町に実在した想像を絶する構造の住宅、二笑邸を
学術的、精神医学的に解析した人物ではないか。
その後、赤瀬川源平藤森照信らがさらに考察を加えた怪著「二笑邸奇譚」を
大学時代に読んだときのショックは忘れられない。


そうだったのか。


本の中には
来年600号を迎えるにあたって
みなさん会費(制作費)をもうちょっと払ってくださいねというくだりもあって
ちまたの不景気を感じなくもないが、
いやこれはいかなきゃダメだろう、600号。


式場さんのためにも
ぼくはその600号を読んでみたい。
医者でもないのに
そう熱望する。