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なにかあり/とくになし

CHOPPED TOMATO PUREE

すまんかった。
ぼくがわるかった。


平謝りをしたい。


素晴らしいと思うけど
完璧すぎるよと
途中で放り出していた(こちら参照)
豊田徹也「珈琲時間」(アフタヌーンKC)に
あらためて手をつけて
おのれの不明を恥じているところ。


何にも知らなかったんだなあ、おまえは。


そう言われながら歳の離れた従兄に
鼻っ柱をピンと指で弾かれた気分というか。


珈琲をテーマにした連作短篇集にあった。
思わず目が止まったタイトルが
「CHOPPED TOMATO PUREE」という。


この欧風料理の材料みたいなフレーズを
ぼくはよく知ってる。


もっと正確に言うと
このフレーズをよく知ってる連中のことも
ぼくはよく知ってる。


これは
メロディに乗せて発音すると
「ちょっと待ってくれ」に聞こえるという
高尚で狡猾で好都合なダジャレであり
先駆的かつ自覚的な空耳であり、
発案者の名前は忌野清志郎である。


1987年に清志郎がロンドンに渡り
イアン・デューリーのバックバンドであったブロックヘッズと
一緒にレコーディングをしたときのシングル曲のB面。
だから
スタジオ・アルバム「RAZOR SHARP」には収録されていない。
ライヴ盤の「HAPPY HEADS」でライヴ・ヴァージョンは聴ける。
しかし、
一度聴いたら「CHOPPED TOMATO PUREE」
すなわち「ちょっと待ってくれ」が耳から離れない。


そういうフレーズを
わざわざ持ち出してくるひとなのだ、
豊田徹也は。


そうか、
「CHOPPED TOMATO PUREE」のスタジオ・ヴァージョンは
一度もCDになったことがないんだ。
いい曲だったよな、あれ。


ひょっとしてこの話、
清志郎が亡くなったときに
描かれたのだろうか……?


そういう不思議な感傷や
未解決の感情を
さりげなくあやつるのが
たぶん彼のやり方なのだ。


それがわかってくると
完璧にスタイリッシュなおとなの小咄に思えた作品群に
どんどん自分の感情をつけ込む隙き間が見えてきて
どんどんおもしろくなってきた。


もう一回言うけど、
すまんかった。


豊田徹也の「珈琲時間」を
とても好きになった。