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なにかあり/とくになし

その犬には名前があった

寒波に襲われた長崎では
大雪が降って空港が閉鎖された。


前日、
ぼくが飛行機に乗ったころにはそんな素振りもなかったのに
夜から降り出した雪は
あたりを白一色に変えてしまったらしい。


一晩延泊で実家に残ったツマは
諫早で一日足止めをくらうことになった。


それでも電話の声は思いのほか元気で
夕方から犬の散歩に行くのだと言っていた。


そう、
諫早の実家には犬がいる。
気の荒い柴犬で
もう14歳になるという。


犬の14歳はかなりの長命だが、
すこし耳が遠いこと以外には
まだまだ元気なのだそうだ。


11日の晩は
ぼくも一緒に犬の散歩に出た。
なるほど
歳のせいか以前ほど見慣れぬぼくたちを敵視していない。
手綱を引くツマが早足で牽制すると
テクテクテクテクと駆け出す。
なんだか仲良いじゃないか。


家人の手を噛んだり
荒くれているこの犬には
名前がないと思い込んでいたのだが
実は「タツ」という
立派な名前があることも知った。


思ったよりも
愛されているんだな。


雪景色の中を
テクテクテクテクと散歩するタツを思いながら
すごく冷え込んだ夜道を歩いて帰った。


ニュースでは
九州の雪は
もうそれほど大々的にはやっていない。
もうちょっとぐらい報道してくれよと思い
ザッピングしているうちに眠気が来た。


獣医さんから4日ぶりに帰ってきたペンコは
押し入れの中に陣取って
エサの時間以外は
ぼくの布団には近づかない。


なんだか
雪の九州の方で犬といる方が
楽しそうだなと
ぶうたれるかわりに
寝返りを打った。