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なにかあり/とくになし

サン・インにて

思いがけず
朝一番の飛行機で
黒いネクタイを締めて山陰に。


式のあとに
その家の裏に向かった。
嘘だろうと思うほどの海で
目の前に広がる砂浜と
180度のパノラマで広がる水平線なのだった。


天気さえ良ければ
太陽が見事に海に沈むのを見ることが出来るだろう。


山陰地方のことを
ローマ字表記で「San-In」と書いた看板を見かけたが
「Sun-In」と書いた方が
表意的にも似合っている気がした。


サン・イン。


「山の陰」だった山陰は
今日「太陽の入るところ」であるサン・インに変わった。
すくなくともぼくの中で。


帰り道は
無人駅から単線の鈍行列車に乗って空港へ。


同行の2人は
ゆるくて心地よい揺れにやられて
あっという間に寝息を立て始めた。


寝息と列車のたてる
ゆるやかな反復ビートにつられて
ぼくもうつらうつらとしているうちに、
何を書こうかずっと迷っている
あるウェブサイトへ送る原稿が
ようやく書けそうな気がしてきた。


そして
しばらく固辞していた
ぼくについてのある申し出のことも
受けてみたい気分になってきた。


単線の山陰本線
駅で何分かの通過待ちを何度も繰り返しながら
しかし確実に目的地まで進む。


その歩みは
今は自分がどこかに停滞しているように思えても
外の時間は確実に進んでいて
いつまでもぼくを待って
止まってくれたりはしないということを
淡々と
しかし情け容赦なく
教えてくれたような気がしたのだ。