mrbq

なにかあり/とくになし

カリフォルニアに雨は降らない

高校時代にカリフォルニアに来て
もう8年になるというK太くんの運転する車から
不意に聴き覚えのあるイントロが流れてきた。


彼のおすすめのハンバーガー・ショップ
「In-&-Out Burger」で遅めの昼食を済ませた直後のことだった。


思わずそのバンド名を口走ったら
彼はとてもビックリしていた。


いや、こっちの方がビックリだよ。
まさかウェストコーストで聴くとは
夢にも思わなかった。


だってそれは
サケロックの「インストバンドの唄」だったんだから。


一時期ルームシェアをしていた
日本からの留学生がちょっとした音楽好きで
彼があるとき教えてくれたのだという。


「このゆったりした感じがよかったんですかね?」


自分でも何故好きになったのか
理由をわかりかねているような口ぶりで
K太くんは車を出発させた。


「なんだろう?
 雨の日にこっちで聴くとすごく合うんですよ。
 あ、でもこっちで雨って
 年に何日かしか降らないんですけど」


曲は「ラディカル・ホリデー」に替わった。
最近のライヴではテンポ・ダウンして「電車」のタイトルで演奏されている曲だ。


そう言えば
アルバートハモンドが30年以上昔にヒットさせた
「カリフォルニアの青い空」は
英語では「カリフォルニアには雨が降らない」だったなと思い出した。


珍しい日に訪れる
珍しい感情をくすぐるなんて
サケロックらしいじゃないか。


カリフォルニアの街に雨が降る日、
ぼくもいつか絶対にサケロックを聴いてみよう。


やがてハイウェイの入り口に来ると
車の轟音にカーステレオの音はかき消されていった。
スピードを上げた車のノイズにまぎれて聞こえるトロンボーンの音が
遠くで親しい誰かが手を振っているようで
ひどく愛おしく思えた。