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なにかあり/とくになし

恋する者にも、ふられた者にも

テキサスのオースティンで開催中の
全米最大規模の音楽コンヴェンション、
サウス・バイ・サウスウエスト。


アレックス・チルトンはこの土曜日に
ビッグ・スターでイベントのメインを張るはずだった。


木曜日(18日)に出演したレイ・デイヴィスは
アレックス・チルトンが好きだった曲だという前置きして
「ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・デイ」を演奏したそうだ。


頑固なメンフィス男と
偏屈なロンドン男が
歴史のどこかでそんな会話を交わしたのだろうか。


そのシーンの妄想だけで
ご飯3杯はおかわりできる。


今夜は
レッド・リヴァー通りにあるクラブで行われた
日本人アーティストのショーケース
「ジャパン・ナイト」に出向いた。


二番目に出演した
riddim saunter
圧倒的に素晴らしくて
しばらくほうけたように口を開けてしまった。


印象的だったのは
にぎやかでチャーミングで
全力を尽くした気持ちの良いステージ上だけではなかった。


ぼくの左手前で見ていたアメリカ人の三人組。
カメラを構えた女性と
男性ふたり。


riddim saunterの演奏が
出だしから弾けまくっていたせいもあって
最初は3人仲良く固まって見ていたのだが、
そのうちひとりの男が
彼女の肩にうしろから手を伸ばしたところで場が急変。


彼女は
振り向きざまにキッと男をにらみつけ
何やら怒りの言葉を投げかけると
ずいずいっと演奏に引き寄せられるように前に行ってしまった。


すかさず横にいたもうひとりの男が
彼女の横にすり寄って
あらら、こっちは何だかいい感じ。


たぶん
今まで微妙な関係のまま仲良くしていた3人が、
今日このライヴの最中に
ひと組のカップルと
ひとりの失恋者に
はっきりと分かれてしまったのだ。


だが
riddim saunterの音楽は
そのどちらにも頼もしく降り注いでいた。


それは
彼らの醸し出す感覚に
はっちゃけたハッピーなダンス・ミュージックに終わらない
やぶれかぶれな切なさとでもいうべき感傷があるからだろう。


アメリカで成功するとかしないとかいうことよりも
目の前にいた3人の男女関係を
はっきりと動かしてしまったその事実の方が
バンドの魅力が言語を超えて届くことを
よっぽど力強く物語ってみせた気がした。


演奏は30分そこそこだったが
その場に居合わせた誰にとっても
とてもしあわせな30分だった。
そう、
恋する者にも
ふられた者にも。