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なにかあり/とくになし

この話ひょっとして通じてない?

アレックス・チルトンが亡くなったことを
今日、お店に来たお客さんと話していた。


チルトンの凄みはわかるのだが
全部の作品を知っているわけではないのでと
そのひと(女性)は言う。


それでいいじゃないかと
ぼくも思う。


彼の活動は
すみずみに至るまですべてが素晴らしいとか
そういう完璧さとはほど遠い。


だが
ゆるゆると澱んだだらしなさの中から
見たこともないほど鮮やかな閃光が
ときどきバチバチと輝く。


凄いような
凄くないような
よれよれの美。


たとえば
道を歩いていて
向こうから茶色いジャンパーを来た
冴えないオヤジが歩いてきたとする。


ところが
すれ違う瞬間に
背中が凍りつくほどの殺気が走った。


何者だ!


そう思って振り返ると
もうオヤジはいない。
そして次の瞬間には
オヤジのどこにそんなに殺気を感じたかすら
忘れてしまっている。


アレックス・チルトンの凄みって
そんな感じでしたよね
なんて話をしたら
「わかるような気がします」と言ってくれた。


おお、我ながら
これってなかなかいけてるたとえ話かしら?


調子に乗って
この話を違うひとにもした。


冴えないオヤジとすれ違って
ぶるっと来たと思って振り返ったら
もうオヤジはいなかった。
それがアレックス・チルトンだ。


あれ?
なんかヘンだ。


この話ひょっとして通じてない?
その話のどこがすごいのかわからない?
自分でも何か大事なものをすっとばしてるような気がする。
ひょっとしてこれ
たいして良いたとえ話でも何でもない?


自信満々なたとえ話が
相手にまったく通じないがっくり感。
それって相手に非があるんじゃなくて
あらかじめこっちの思い込みがおかしいんじゃないの?


この体験に似た話を
つい最近どこかで読んだような気がする。


ああ、
これだ。


石黒正数
もっと評価されるべき大傑作
ネムルバカ」(リュウコミックス)のスピンオフ的作品。


この新作に出てくる、
ピントがずれてるのに
妙にリズム(調子)だけはいいお父さんが
ぼくは他人に思えなかったのだ。


それにしても
志村貴子放浪息子」10巻
杉本亜未ファンタジウム」5巻
東村アキコ海月姫」4巻
まとめて出過ぎですよ。
充実し過ぎてて一度に読めませんよ。
シメキリ女中がこっちをにらんでますよ。