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なにかあり/とくになし

3月27日深夜、トークセッション・ウィズ・運転手さん

終電を逃してしまったため
恵比寿のDJからタクシーの相乗りで帰った。


ひとり降り、
ふたり降り、
最後にぼくが残った。


めずらしく
今夜の運転手は妙齢の女性。
すこし時間もあるので
おもむろに話しかけてみた。


「今日は少しはお花見の人出はあったんですかね?」


………………。


返事がない。
気まずい沈黙。


だが
すこし間を置いて彼女から返ってきたのは
思いがけない言葉だった。


「あたし、ちょっとお訊きしたいことがあるんです」


思わぬ展開に虚を突かれた。
ささやかに狼狽しているぼくを無視して
彼女は言葉を続けた。


NPO法人って最近よく聞くでしょ。あれ何なの?」


なんという薮から棒!


思わずこけそうになったが大丈夫。
ここはタクシーの中で
ぼくはシートベルトをしている。
ひとまず彼女の唐突な質問に
つきあってみることにした。


「……何なの? と申しますと……」
「あれってどんな団体なの?」
「特定の団体ではなくて、いろいろあってその通称なんですけどね」
「ああ、たくさん種類があるの」
「ええ。要するに非営利の公共活動のために政府に法人格を与えられた団体のことです」
「ああそう。あやしいもんじゃないのね」
「まあ一概には言い切れないと思いますけど」
「ボランティアみたいなことをよくやってるでしょう?」
「ああ、NPOのひとたちが」
「食べていけてるの?」
「どうなんでしょうか?」
「なんか気になんのよね」
「そうですか……」
「あなた、お仕事はジャーナリスト?」
「は?」
「いや、こんな夜中に大きなかばん持ってるから」
「そ、そうですね……。一応書く仕事はしてますけど」
「ジャーナリストも大変だよねえ」
「はあ」
「権力にちゃんと刃向かってるの?」
「いやあ、そういうジャンルじゃないんですけど」
「トリゴエさんだっけ? テレビ出てるひと。あのひとは好きだわ」
「そうですか……」


その後、
何度か右折と左折をするうちに
何故か話題は、の●ぴーとその夫の近況に……。


「え! じゃあ、あの旦那さん、また何か撮られちゃったの?」
「写真週刊誌にでかでかと出てましたよ」
「やっぱりクスリってやめられないんだねえ」
「の●ぴーとも別れられないみたいですしね」
「あのひとも介護の勉強するとか言ってるでしょお」
「はあ」
「あれも本気じゃないよね。イメージアップのためでしょ」
「はあ」
「大変だもの。あの仕事は」
「そうですよね。きついのに収入も低いですしね」
「あたしもね、知り合いに介護の仕事勧められたことあるのよ」
「はあ」
「タクシーやめて介護やれば、って」
「はあ」
「でもね、あたしには無理」
「そうですか?」
「自分の親もね、ちゃんと介護出来なかったし……(涙ぐむ)」
「…………」
「……ましてや他人の面倒なんてね、うぐっ」
「そうですね……、口では立派に言えてもね」
「あたしには無理だわ(鼻をすする)」
「いや、まあ……、その……」
「……あれ? お客さん、この辺って言ってなかった?」
「あ、すいません、そろそろで」
「どうもありがとう。楽しかった」
「いえこちらこそ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」


家に帰ると
キングジョーからメールが来ていた。


キングジョー+須田信太郎漫画「DFK」最終回
完成です!


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