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なにかあり/とくになし

「クマと闘ったヒト」を読む

クマと闘ったヒト」(ダ・ヴィンチブックス)は
一日で読み終えた。


本の表紙は
著者として中島らもの名前しか挙げていないが
対談集であるこの本は
ただしくは共著と記すべきかもしれない。


と思って
背表紙を見たら
中島らも
ミスター・ヒト
と共著クレジットになっていた。


営業上
表は中島らもを前面に押し出したが
背では誰かが抵抗をした。
そう思うのは読み過ぎか。
出来ればその抵抗者は
らもさんであってほしい。


プロレスの味方であったミスター・ヒトは
プロレスにおける約束事や
有名レスラーの意外な素顔は明かしてくれるが
そこに嫉妬やさかうらみや
暴露的ないやらしさはない。
のんべえのほら話的なスケールの大きさが
事実につきまとうせつなさやせせこましさを中和してくれる。
だからさらっと読み心地がいい。


何かにつけて「もっと知りたい」と要求してしまうひとには
かなり物足りない本ではあるかもしれないけど。


クマと闘ったというエピソードも
あれっ? と思うほどあっけなく話されるだけ。
本のハイライトでも何でもない。


ふたりの関係が
このままもっと続いていたら
さらに込み入った言葉のやりとりがあったのかもしれないが、
ふたりとも
まさか自分が死ぬなんて思ってもみなかったのだろう。


また気が向いたら
飲みに来そうな雰囲気じゃないか。


複雑な気分になるのは
2000年に出版された本なのに
現役バリバリとして紹介されている人気レスラーが
2010年時点では
もう何人も故人となっていることだ。


他人から見たら生き地獄としか思えない状況を
底抜けに明るい色彩で描いたようなこういう本は
どういうジャンルであるにせよ
今後なかなか書かれないだろう。


なお本書は
中島らもの著作の中で
いまだに文庫化されていないもののひとつでもある。


【9/6追記】
祝! 文庫化!