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なにかあり/とくになし

鉄橋の下で彼女は言った

家に帰るまで待ちきれずに
仕事中に休憩をもらい
ルノアールまで駆けつけた。


祝日午後のルノアール
禁煙席は満員。
喫煙席は今ひとつ空いたところ。


テーブルが片付く前にすべりこみ
ページをめくる。


村上かつら淀川ベルトコンベア・ガール」1巻(ビッグコミックス)は
それほど気になる一冊だった。


連載誌を読む友人から
「今度の村上かつらはすごいですよ」とは聞いていた。
すごいといっても村上かつらだもの。
世界が終わる話しなわけじゃない。
でも、彼が言いたいことはよくわかる。
村上かつらはきっと今度もすごいのだ。


主人公の女の子は
高校を出て大阪に来て
淀川のほとりにある厚揚げ工場で働く16歳。


厚揚げ工場て……。


連載第一回で
彼女は
阪急電車ののぼりとくだりが交錯する瞬間に
鉄橋の下で願いごとをする。


流れ星ほどレアなその瞬間に
3回願いごとを声に出して言えたら
それが叶うといううわさを
彼女はどこかで信じている。


その願いごとは
「ともだちを、ください」。


その純情すぎるひとことが
喫煙席にもうもうとたちこめる白い煙と
がやがやとざわめく世事あれこれの中で
サイケデリックなラブソングのように
頭の奥につーんと来た。


おしぼり、おしぼり。
泣いてない、泣いてない。


村上かつらの漫画は
彼女自身にも結末がはっきりと見通せていないところがあるし
後味の心地よさを必ず保証してくれるものでもない。


だけど
だからこそ
そのままならなさに翻弄されながら
しぼりでてくる感情が
拳みたいにみぞおちに入るのだ。


どすん。


まるで人生みたいなフィクション。
つつしんでおつきあいさせていただきます。