おばあちゃん、ぼくはあなたに訊きたいことだらけです

今夜は恵比寿でDJということで
レコードバッグを持って出かけた。

阿佐ヶ谷北口の短いアーケードにさしかかる。
花屋さんの隣に
ときどき営業している古道具屋さん。
腰の曲がったおばあちゃんが
骨董と呼ぶには味わいの深すぎる
古ぼけた日用品を売っている。

おどろいたことに
今日その店先に
無造作にレコードが20枚ほど積まれていた！

一枚300円と書かれた紙の下にあったのは
すべてブラコンとヒップホップ。

何かあるかもと勘を働かせ
数枚めくってみたが
なんだろう、この微妙にすえたというか痩せた感じ。

年代で言うと1995年前後の
比較的良質なものがあるのだが
とびぬけたものはないというか……。
それともすでに抜かれたあとなのか……。

良いものもある気はするのだが
それをはたして今買ってどうするの？
そうでなくても今レコード整理中なのに。

物欲しそうにめくっていると見えたのか
よたよたとおばあちゃんが近づいてきた。

「いらっしゃい」

おばあちゃん、
このレコードはお孫さんのものですか？
その子が高校生ぐらいのころに
マンハッタンやシスコでがんがん買っていて
卒業して就職して結婚して子どもが出来て
こないだは子どものはじめての運動会で
でも彼は仕事で忙しくて
奥さんとちょっとケンカもしたりして
ひさびさに実家に戻ってきて
ふう〜とネクタイでもゆるめながら
昔の自分の部屋に入ってみたら
うわなんだこりゃおれも若かったなあ、
こんなの出て来たよ、おばあちゃんお店で売ってくれない？
でもとりあえず
今の相場も知らねえし、
微妙なところからまず売ってもらうとするか、
これとこれとこれ持ってって、
一枚300円でいいよ、
みたいな感じになったのですか？

おばあちゃん
ぼくはあなたに訊きたいことだらけです。

だが、
それをいちいち訊ねてたら店に遅刻しそうなので
そんな質問は脳内に押し込めて
にこっと会釈を返して駅に急いだ。

夜は恵比寿の駅前食堂。

DJしたのは30分足らずだったが
話が盛り上がって結局今日も終電を逃した。

渡邉さん、
帰りに送っていただいてありがとうございました。