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なにかあり/とくになし

朝コトン朝マンガ朝ゴハン

我が家の猫ペンコは
激しすぎる人見知りを除けば
すくすくと
決してでっぷりと太ることもなく
女の子らしいスマートさで順調に育っている。


……のだが、
最近ちょっと困ってるのは
明け方になるとダイニングのテーブルに乗っている
花瓶をコトンと倒してしまうクセがついたこと。


女の子らしく
お花の香りをくんくんしているのだろうか。


いいえ。
ゴハンの時間まで待てず
お腹がすいたペンコは
花や葉を食べようとして
花瓶のバランスを崩してしまうのだ。


そろそろおもてが明るくなってきて
ぼくの眠りが浅くなってきたころ
必ずそのコトンは耳に入ってくる。


あるいは
ぼくがむにゃむにゃしている素振りを感じて
「今が起こすチャンスだわ」と
わざと花瓶を倒しているのかもしれない。


テーブルマットもないし
下は板間だから
それほど大きな実害はないのだが、
こないだは雑誌を一冊びしょびしょにしてしまった。


んもー、ペンコめ。


まあそんな感じで
ぼくの朝は大あくびしてはじまったり
そのままなんとなく二度寝したり。


起きてしまった朝は
メールをチェックしてから
原稿仕事がとくになければ
漫画でも読む。


藤原カムイROOTS」(集英社)。


このひとの漫画を読むのは20年ぶり以上。
ぼくが知っているのは
80年代後半の藤原カムイ
繊細でかわいらしくイメージ豊かで
しかし
残酷さや不条理をはらむSFタッチの作品を
少しだけかじったくらい。


その後
ゲームのコミカライズ作品で
ブレイクした時代は知らずに来た。


ひさびさに手に取ってしまったのは
この本が1959年生まれの藤原さんの
少年時代を描いた作品ということと
虫コミックス」や「SUNコミックス」を思わす
表紙デザインのせいだろう。


読んでみると
ストーリーは素直なのだが
イメージを飛ばしてふくらますという準備を
こちらもしておかないと話に追いつけない。
難しいことが描いてあるわけじゃないが、
なんとなく昭和って懐かしいよねという
曖昧な共感だけで読みこなせる漫画じゃないのかもしれない。


そうだよな、
だってこれは
ひとりの子どもが生まれて育って
漫画家になってゆく宿命の
その入り口を描いたものなんだから。


ひとを創作に突き動かすものは
架空への憧れだろう。
実話をもとにしていても
そこは譲らない。


絵柄は昔とはずいぶん変わってしまったけれど
藤原カムイって
そういう信念のある漫画家だったよなと思い出す。
芯のところはきっと変わっていないのだ。


見返しのところに
カバーの裏も見てくださいと書いてある。


はて何じゃらとめくってみて驚いた。


こ、こ、こ、これは……。


表紙カバー裏一面に記されていたのは
漫画家たちのルーツと系譜を組み合わせ
大きく展開したファミリーツリーだった。


その根の中心は手塚治虫だが
過去と現在にまたがる目配りがすごい!


眺めているだけで
軽く数時間は経ってしまいそうだ。


「んなー」


ペンコが
「ご飯の時間よ」と鳴いた。


気がつけば
もうそんな時間になっていた。