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なにかあり/とくになし

金しばりのあと

夜、
金しばりに遭った。


本人はぼんやりとしか覚えていないのだが
「ぬも〜」と
大変きもちわるいうめき声をあげて
ツマはびっくりしたそうだ。


もうろうとした中で記憶にあるのは
入り口からだれかがのそっとはいってきて
ぼくの安全をおびやかそうとしているのに
うごけないまま恐怖だけを感じるという
あのイヤな感じ。


霊感はいちじるしく欠けた方なので
実際に霊的なものに襲われているということはないだろう。


それに
金しばりが
肉体的な疲労
脳の活動のアンバランスから生じるということぐらいは
なんとなく察しがついている。


肉体的な疲労
時差ぼけが抜けきれないのに週末に夜遊びをしたから。
頭が眠りきらないのは
きっと土曜の夜の酒席でかわされた議論の
残り香が抜けきっていないからだろう。


その議論のテーマとは
ものすごくおおまかに言うと、


現代に新しい音楽は生まれているか?


新しいアーティストによる
聴いたこともないサウンド
もう生まれないのか?


というものだった。


それについて
ふたりの知り合いが
テーブルの対角線で意見を言い合った。
観客は
ぼくも含めて3、4人。


何が回答なのかを導き出すための議論ではないし
酒の席のオーバーヒートみたいな部分もあったが、
「ただ自分の記憶や体験をもう一度満たすだけではなく
 聴いたことのない音楽をこれからも聴いていきたい」
という
すごくまじめな欲求というか
未来へのお願いみたいな気分が
その場にぷう〜んと漂ったのは事実だろう。


もちろん
その場に居合わせたのは
レコード、それも中古の世界に深く足をつっこんだ人物ばかりで
物理的な新しさだけが
自分たちにとっての“最新”ではないなんてことは
とっくにわかっている。


だけど
次の世代にとっての“新しい”という感覚、
もっとひらたく言うと
「うわ!」と声を出して驚く未知のものへの感じやすさや、
そのアーティストなり音楽が進む荒れ地を
同時代人として一緒につきあっていきたくなるような強い思い入れを
どうしたら持ってもらえるかぐらいのことは考える。


そういうことを
うまく
つよく
大胆に
つたえる方法は何なのか
それを考えてしまう時間は
ぼくにだってある。


酒はおいしかったが
議題は二日酔いになった。


実を言うと
数日前から
あるきっかけがあって
ぼくは何かを作りたい気分になっていた。


あの酒席でのやりとりが
直接的ではないとはいえ、
ぼくの心をもぞもぞとさせた。


だから
夜に金しばりにあった。
ぼくの結論はそう。


そして
夜更けに一度目が覚めた。


どうなるかわからないけど
リズム&ペンシルの名前でもう一冊作れたらと
具体的に考え始めた。


出来たときに
「あのとき偉そうに書いてた結果がこれかよ!」と
言われるようなテーマかもしれないけど、
今なんとなく
気分がころころと転がり始めている。