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なにかあり/とくになし

空飛ぶ男がふたり

上映が終わり
客電が点いた。


ためいきとも
あきれともつかない雰囲気が
場内に蔓延しているのがわかる。


しかし
ぼくの目のはじっこは
実は濡れていて。


泣いてしまったのです。


ロバート・アルトマン、1971年の作品「バード★シット」。
日本公開は39年ぶり。


ある若者の無謀で不思議な青春と
謎の多い連続事件が絡み合うストーリーには
考え抜いた伏線があるようで
その実
どこにも深い意味はないのかもしれなくて。


あるいは
ファンタジーなんてのは
本来、わかりやすい起承転結とは無縁なんだと
アルトマンは言いたいのかもしれない。


映画としては
たぶんこれは欠点だらけなのだ。
でもその欠点のすべてが
どうしようもなく愛おしいという映画でもある。
不道徳と不潔と不実と
真実の美しさと残酷さが
無謀な夢の姿を借りて
おそろしいほど過剰に散りばめられていている。


美学がいっぱいに詰まったズタ袋から
ポロポロとあちこちに美の破片をこぼしながら
やりたいことだけをやっている。
いちいち説明なんかしない。


これは若い映画作家志望者が
絶対に作ってはいけないと教わる見本のような映画であり
それと同時に
一度はこれほどすごい(無謀な)ものを
作ってみたいと焦がれるに違いない映画でもある。


自分のなかのアマチュアリズムを
どうしようもなくかきむしられるのだ。


まだあと10日ほど公開期間は残っているから、
ストーリーは書かない。
時間があったら
是非見に行ってほしい。
一日五回もやっている。
ぼくだってもう一回行きたい。


ある友人は
佐野元春が若いころに
 少年が空を飛ぶ映画を見たって語っていたんだけど、
 それがこれじゃないのかな」
と推理した。


もしそれが本当にこの「バード★シット」なら。
いやたぶん本当にそうなのかも。
佐野さんは
この映画みたいに
美しく混乱した音楽を
作ってみたいのかもしれない。


ところで今日は
偶然にも
男の子が空を飛ぼうとする漫画を読んでいた。


元町夏央の新刊「ふわり」1巻(ビッグコミック)。
こっちの話はまだ始まったばかりだ。


元町さんは
バード★シット」を見に行くだろうか。