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なにかあり/とくになし

老いにまかせて

夕方
容赦ない日差しを木陰で避けて
ひとを待つ。


ここは
とある大学の前。


まだ待ち合わせの時間があるから
ちょっと前のアメリカ買付での話でもしよう。


マクドナルドで朝食をしていたら
日本語の会話が物珍しかったのか
地元の老人に話しかけられた。


ぬっと現れた老人は
のどの奥からふぉふぉっと声を出した。


「あんたがたどこから来なさった?」


東京ですと答えたが
特に関心をくすぐらなかったらしく
すぐに話題は別の方向へ。


「傘を用意しなされよ。
 今日は雨になるぞ。
 そんな雲じゃ」


そんな警句じみた言葉を残して
老人は自分の席へと戻っていった。


なんだか不気味で
よくわからないやりとりだったが
この土地での人生経験を積んだ者にしかわからない
雲や風の気配があるのだろうと
なんとなく深い感慨にとらわれた。


それとも
何かおまえたちの身に
よからぬことが起こるぞよという意味の暗示なのかしら。


……それから数時間後。


からっと晴れました。
汗ばむくらい暑ちい!


老人!
あんたの予言、
思いっきりはずれたよ!


教訓。
あやしい老人の言うことは
結構あてにならない。


だけど
異国の老人のおかげで
自分の老後も
ちょっとラクにしてもらったような。


老いのくるしみばかりを
どうだどうだと映し出すニュースに
いい加減ぼくはうんざりしているのだ。


ぼくも歳取ったら
老いにまかせて
いい加減なこと言いまくってやろうかと。


「すいませーん、松永さーん」


待ち人到着。
待ってる間
こんなこと考えてましたとは
とても言えない夏休み最終日。