自転車に乗って

朝早くから
健康診断で
荻窪の大きな病院に。

ひさしぶりに自転車に乗った。
前輪の空気が抜けていたのを
今日使うだろうということで
ツマが修理しておいてくれた。

早稲田通りを
おやっと思うほど小さな通りから左折すると
信号に阻まれることなく
すいすいと一本道であの病院まで行けるんだよと
昔乗ったタクシーの運ちゃんが教えてくれた。

今も律儀に
その道を守っている。
自転車なのに。

むきだしの鉄の部分が
かなり錆び付いてしまっている自転車は
タイヤが一周するごとに
「クッ」「クッ」と鳴き声をあげる。

タイヤカバーやスポークや
電灯のモーターの接触部をいじってやると
鳴き声は変わって
「クカッ」とか「クヌッ」と言い出した。

チェーンの調子もかんばしくないのか
後輪の方からは
「ホゲッ」とか「ナカナカッ」というような声がする。

おいおい、
前もうしろもか。

そのうち
乗っている途中で
どかぼかぐわしゃんと
全体が一気に解体してしまうのではないかと思えなくもない
そんなスリルもはらみつつ、
まあ何とかなるだろうと思えるのは
その「クカッ」や「クヌッ」や「ナカナカッ」が
重いものを運んだり
柄にもない重労働をしているときの
ぼくが出す声に似ているからだろう。

自転車も
飼い主に似るのかと
今日悟った。