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なにかあり/とくになし

渋谷から池ノ上まで

お店が終わってから
今夜は行くところがある。


その前に書店に寄ると
あるわあるわ
新刊コミックのラッシュ。


たぶんお酒を飲むから
大荷物になるのは避けたい。


だから
「これだけは今夜」と思った
渡辺ペコにこたま」2巻(モーニングKC)を手にとる。


井の頭線のホームに出ると
携帯に留守電が残っていた。
待ち合わせの予定が変わって
池ノ上まで来て欲しいとのこと。


普通列車に運良く空席を見つけ
「にこたま」をひらく。


1巻では
ふたりの恋人の若い同居生活の現実を
この作家らしい
機転の利いた脚本で
さめたぬくもりというか
ぬくもったクールさで描いていた。


人間が生きているという体温
ひととふれあうときに感じる体温
思いがあふれるときの体温
思いがさめてゆくときの体温、
やさしいときも
かたくななときも
つらいときも
体温はうそをつかない。
渡辺ペコ
漫画のなかでひとの体温を表現する才能がすごい。


それって
本当の意味でのエロなのかもしれないよ。


2巻では
その生活を彩る背景のようであった人物たちにも
描写の軸が移動するようになり、
本気のがんじがらめを扱う群像劇の体をなしてきた……ように思う。


だって電車はもう池ノ上。
三駅くらいじゃ読み切れないし
結論なんか出せっこない。


改札を抜け
階段を降りながら
がんじがらめの
“がんじ”って何なんだと考えた。


その“がんじ”の正体が
体温のことなのかもしれない。
ぬくもりに人間は死ぬほどよわい。