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なにかあり/とくになし

いきなりはじまる本のこと

真造圭伍「森山中教習所」(ビッグコミックス)は
いきなりはじまる。


見返しや中扉がなく、
すでにお話がはじまったところで
ようやく4ページ目で目次に入る。


本を
漫画を
読むときに
見返しや扉のおかげで
ぼくたちは日常から別世界にすんなり入ることが出来る。


レコードで言えば
針を落としたときの
ブチッという音も
そういう入国の儀式みたいな気分がある。


それがないからと言って
中身の何が変わるわけでもないのだが、
こっちとそっちの区切りがあることで
ぼくたちは
安心してフィクションの世界に浸っている、ような気もする。


森山中教習所」には
意図的になのか造本の都合なのかわからないが
その区切りがない。


だから
1ページ目から漫画の主人公と彼女の
別れ話がはじまっていて、
それがまるで
ぼくの日常と地続きで行われているかのような
混乱と錯覚を一瞬もたらす。


目次が出て来て、
「あ、漫画だった、これ」と気付く。


とある地方都市とも言えないような田舎町で
まったく異なる生活を送る
元・高校の同級生ふたりが偶然に再会し、
不認可で
廃校になった中学校を利用した
家族経営の自動車教習所で
奇妙な友情を感じながら
一緒に教習を受けるという数ヶ月の物語。


よくある
いっぷう変わったほのぼの話のようで
読みすすめると
かなりのカタルシスが待っている。


ところどころに結構な無理はあるけれど
それがお話を成立させるうえで
気持ちのよい無理になっていた。
ものをつくる上で
そういうことが才能なのだと思う。


読み終えたあと
車の免許を取りたくなるかどうかはわからないけれど
もう会うことはないだろう昔の友だちのことを
すこし思い出したりはするはずだ。


ぼくは、した。


見返しも扉もなく
お話がはじまったからだけではなくて。