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なにかあり/とくになし

ア・デイト・ウィズ・バンヒロシ その6

「バンです〜」


携帯の向こうから声がする。
バンちゃんから電話がかかってくるときの
第一声がはいつも「バンです〜」。


その抑揚というか
甘さというか
隠し立てのなさというか
字では再現できないニュアンスが好きだ。


しかし
今朝の「バンです〜」は
ちょっとねむたげだった。


「寝過ごしてしもうた。
 あと10分くらいで行きます〜」


というわけで
南大門のあたりでバンちゃんを待つことにした。
立派な門の内側には
スペースを利用して喫茶コーナーが設けられている。
さっき六曜社で珈琲をおかわりしていなければ
是非ご賞味させていただきたいところだったけれど。


天気は朝から申し分ない。
シングル盤の箱をあさり
ふと見上げると
からっと抜けた青空を
五重塔が突き抜けそうにそびえ立っている。


藤本房子さんという女性の歌う
「お湯をかけたら」というシングル盤を
買おうかどうしようか迷っているうちに
バンちゃん登場。


「ああそれ、持ってるよ」と軽くひとこと。


結局
「お湯をかけたら」は
同行していたY内さんが手に入れた。


そのシングル盤が入っていた箱を
さくさくと漁るバンちゃん。


「お、あったあった」と手にしたのは
女と男のいる舗道」の日本盤シングル。


「これで3枚目やけど
 ジャケと盤のいいのがようやく合わせられるわ〜。
 朝から運がいい」


そう言いながら
あっと言う間に数枚を引き抜いていた。


謡曲、ロック、イージーリスニング、アニソン、
バンちゃん基準で選ばれたシングル盤は
どれもばらばらなのに
まとめてジャケを見るだけで
バンヒロシの色になる不思議。


ユキカワくんはバンちゃん合流を見届けて帰宅。
ちょうどそのころ
携帯がまた鳴った。


昨日のイベントに来てくれていたK脇くんから。
彼は今、京都のJET SETに籍を置いている。


「バンさんも一緒に
 昼飯でも食べませんか」


そうねえ、
バンちゃんに相談してみるわ、
また一時間後くらいに電話ちょうだい、と答える。
どうせ今日は
行き当たりばったりでOKなのだ。
バンちゃんが一緒なら。


さらにしばらくぶらぶらと歩く。
バンちゃんはさきほどの収穫に至極満足そうだ。
やがて
市の脇に建っている東寺の講堂のあたりにさしかかって、ひとこと。


「立体曼荼羅見たことある?」


国宝級の仏像が
大挙陳列され
曼荼羅の世界を3Dで表現したという立体曼荼羅
仏像マニアのみうらじゅんも溺愛する逸品らしい。


そう言えば
「バンヒロシ大学」では
バンちゃんとみうらじゅんは同い年だと明かされていた。


みうらじゅん東山高校で浄土宗、
 こっちは花園高校で臨済宗
 仏教同士だけど宗派も校風も全然違うねん」


そんなことを言ってたっけ。
みうらじゅんの仏像講釈もいいけど、
バンちゃんと一緒に見る立体曼荼羅もおもしろそうだ。


じゃあここはひとつ
見ましょうか、立体曼荼羅
巻き込まれてみましょうか、バンちゃんの京都案内に。(つづく)


ア・デイト・ウィズ・バンヒロシ その6 松永良平