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なにかあり/とくになし

ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その4

先日のNHK-FM
小西康陽 これからの人生。」がオンエアされた週の金曜日、
ハイファイの入り口付近で大江田さんが
一枚のチラシを手にして
しげしげと眺めていた。


訊くと
「いやあ、
 こないだのラジオで初めて聴いたんだよ、この娘(こ)、
 素晴らしいね」
と興奮まじりに話しだした。


それは
もうずっとそこに目立つように置き続けている
安藤明子「オレンジ色のスカート」の
ちいさなチラシだった。


「最初の曲も良かったし
 旧来のフォークの影響を抜け出てうんぬんかんぬん……」


長くなりそうなので
それをさえぎってひとこと。


「そのチラシ
 ずっとそこに置いてたじゃないですか。
 もっと早くに気がついてくださいよ」


われながら
こっちも無茶を言う。


大江田さんが
ちょっとしょぼんとしたように見えたので
あとで声をかけた。


「安藤さんのインタビュー
 ぼくのmrbqではじめましたから、ね?」


というわけで
ハイファイ・レコード・ストアの大江田さんもファンになった
安藤明子インタビュー、4回目です。


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安藤 わたし、昔はほんとに内向的というか、音楽やってるひとが怖かったんですよね。


松永 え? 自分も音楽やってるひとじゃないですか。


安藤 怖いから学校の軽音部とかもよう入らなくて。自分の音楽はわかってもらえないと思ってしまってたんですよ、たぶん。それで京都でもずっと引っ込んでいたんですけど、『ペリドット』のアルバムに参加してるトランペットの瀬戸一成さんに「ユニットを組もうか」って言ってもらえて。瀬戸さんは音楽で食べてるひとだったので、すごく意識が高くて、「お金払ってライヴやってちゃダメだよ。ギャラもらうべきだよ」とか言ってくれて。でも、わたしはそのへんの感覚がまだわからなかったんで、最初は瀬戸さんのことは「怖い」と思ってましたね(笑)。


松永 やっぱり音楽やるひとは怖い、と(笑)


安藤 でも、それまでひとりでやってきてすごくしんどかったし、そのとき一緒にやろうって言ってもらったことはわたしにはよかったんです。大阪の新しいライヴハウスも紹介してもらったり、薄花葉っぱ(はっかはっぱ)というバンドとも「対バンしない?」とか瀬戸さんが言ってくれたりして。薄花葉っぱは瀬戸さんの知り合いで、たまたまメンバーのひとがわたしとおなじ六曜社で働いてたんですよ。それで、薄花葉っぱとの組み合わせで、初めて今までと違う感じのライヴハウスに出たんです。木屋町のアバンギルドという店なんですけど。そこに出たときに、「あ、わたしの音楽はこっちの方がいいんだ」って思えたんです。それまでは、まわりの出演者がポップな感じが多くて、わたしは浮いてる感じを抱いていて。その違和感が解消されていったんですね。瀬戸さんとのユニットは、一年ぐらいで解散してしまったんですけど、いまだにすごくよくしていただいてます。


松永 そういうのも大事な転機になってるんですね。


安藤 それからしばらくは特にびっくりするようなこともなく、地道にひとりでやってたんですけど(笑)。いつだったかなあ、あれは? バンヒロシさんに出会ったんです。あれは大きかったですね。


松永 いよいよバンちゃん登場。


安藤 瀬戸さんと初めて出たアバンギルドで、ミズカ(Gallery mizuca)というカフェのオーナーの荒井さんという女性のかたが見に来てたんです。荒井さんは薄花葉っぱのファンで見にきてたたんですけど。そのとき、わたしが弾いてたヤマハのFGジュニアっていうオモチャみたいなミニ・ギターを「かわいい!」って言ってくれてたらしくて。六曜社のバイト中に薄花葉っぱのひとにも「あの日のライヴのことなんだけど。あのギター、荒井さんも欲しいって言ってるよ。ミズカに行ってみてあげて」って言われて。「じゃあ行ってみます」と答えながらも、出不精なんでなかなか行かなくて(笑)。そしたら、六曜社のお客さんで写真家さんがいて、そのひとからもメールが来たんです。「ミズカのひとが安藤さんのギターのことを気にしてます。なんでぼくがメールしてるのかわかりませんが、お店に行ってあげてください」って(笑)。そのメールには、「ミズカの2階のギャラリーで今度ぼく展示会をやるので、見に来てください」とも書いてあって。それで「これは行かないといけない」と思って、初めてお店に行ったんですよ。そしたらお店は水曜日定休で、展示会は火曜日までだったんです(笑)。


松永 いやあ、なかなか会えないもんですね(笑)


安藤 それであらためて、次の日か、次の次の日くらいに行って、「写真のひとにあやまっておいてください」って言ったんです。そしたら荒井さんは「あー、待ってたよ」ってよろこんでくれて。例のギターも持っていってたんで「ちょっと弾いてみてよ」って言われて、そこで演奏したんです。「今度一緒にそのギター買いに行こう」って約束もして。それで、ギターを買いに行った日に荒井さんとしゃべってたら「バンヒロシさんってひとがいてねー……」って話になって。わたしは「ふーん……」って生返事で。荒井さんも「知らん? 知らんかー」みたいな感じの反応で(笑)。


松永 知らんかー。知らんよねえ。


安藤 そしたら「バンさんはこうこうこういうひとでね……」みたいな説明を荒井さんがしてくれて。「今度、小西(康陽)さんのサイト(columbia*readymade)で、うちのお店のこと書いてくれるのよ〜」って、すごいうれしそうだったんです。わたしも「すごい! いいですねー」って返事したりしてて。で、その日はギター買って帰ったんですけど、ちょっとしたら電話かかってきて。「前言ってたバンさんが、対バンする女の子探してるんだって。明子ちゃんどうかなと思って紹介してみた。会える? いつ来れる?」。それで、次の日ぐらいにミズカに会いに行ったんですよ。そこに「どうもどうも」って現れたのが、バンさんだったんです。


松永 「どうも〜、バンです〜」ってね(笑)


安藤 でもね、知らなかったはずなのに、「わたし、バンヒロシって名前をどこかで聞いたことある」とも思ってたんですよ。


(つづく)


ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その4