mrbq

なにかあり/とくになし

ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その6

11月も
もう終わり。


今日は前置きなしで
安藤明子インタビューにいきましょう。
話は佳境に入るのか
それとも寄り道迷い道か。


第6回です。


===================================



松永 バンさんの話に戻りますけど、アルバムを作るという話は、どういうふうにくどかれたんですか?


安藤 何て言われたんですかねえ? わたしも作ってほしかったというのもありますし。曲はいっぱい作ってあって、ライヴでも新しい曲をよくやっていたのに、しばらく新しい音源の予定がなかったんです。そんな話をしたら、「じゃあ録ろうか」って言ってくれて。


松永 それでバンさんがプロデュースしたのが『Anの部屋』。カセット一発録音の、あの音質にはおどろきました。


安藤 そんな感じの音ですよね。でも、ギターはラインで録ったんですよ。


松永 バンさんは、やっぱり弾き語りがいいと思ってたんでしょうね。


安藤 そうですね。実は『ペリドット』の前に、2枚自主制作のアルバムがあるんです。めっちゃ、もっとやばい感じの弾き語りなんですけど(笑)


松永 いや、それ聴いてみたいと思ってるんですよ。『ペリドット』の帯に“サード・アルバム”だって書いてあるから、「えー? その前の2枚は?」ってずっと思ってて(笑)


安藤 それ持ってくればよかった! 今度聴いてください! すごい恥ずかしいけど、“恥ずかCD”ですけど(笑)。その2枚はギター一本だったけど、あまりにも聴きにくかったんですかね。録音状況もわるいし。


松永 その弾き語りの2枚の生っぽさと『ペリドット』のポップさと、その両方の良さをバンさんはやりたかったんでしょうね。とにかく『Anの部屋』は素晴らしかったですよ。一瞬で空気が変わる感じがあるし。


安藤 いやあ……。そう言っていただけてよかったです。でもなんか、こうやってしゃべってると、もう違うひとなので(笑)


松永 は?


安藤 CDでうたってるひとと、しゃべってるわたしが(笑)。だから申し訳ないです、ハハハハ。


松永 いや、どっちも安藤さんじゃないですか(笑)


安藤 おんなじひとなんですけどね。自分で自分のCD聴いてても「いいですよねー」って客観的に思ってしまって(笑)


松永 そういうのって、ぼくもありますよ。たとえば、自分の書いたものが話題にあがったりするときに。


安藤 自分のやったものじゃないような。


松永 書いたことを忘れてたりもするし(笑)。忘れてるというか、忘れはしないまでも、世に出したものは自分を離れてるんですよ。


安藤 おなじことなんですかね?


松永 「ここがよかった」とか言われて、読み返して、「そうなんだ」って感心するみたいな。


安藤 そんな感じかもわかんないです。でも、ちゃんと時間をかけてつくった歌をうたうときと違って、こうやってひとと話をするというのは、考える隙き間がほとんどなくてしゃべってるじゃないですか。それにあんまり自信がないんですよね。考えなしにしゃべってしまうと後悔するんですよ、自分の言ったことに対して(笑)。なんか意味わからんことばかり言っちゃったなあ、とか。


松永 いやいや、ちゃんと意味通ってますよ。それに、自分と作品との不思議な距離感という意味だったら、安藤さんの歌には独特のものがありますよね。クールさ、というのとはちょっと違うけど。なんか、自分の歌をうたってるんだけど、「この歌はわたしだけのもので、誰にも邪魔させない!」みたいな部分がない。うたってるのは自分だし、歌をつくってるのも自分なんだけど、外に出てしまえば、あとはもうころころと転がっていってしまってよし、みたいな。歌で聴き手をしばらないというか。


安藤 うーん……。わかんないですね(笑)


松永 歌はどうやってつくってるんですか?


安藤 歌詞とメロディが一緒に思い浮かぶときもあります。でも、歌詞が先だったりすることも多くて。なんかふとしたときに、ひととしゃべったりしてるときとか、気になるワンフレーズがあるとそこからつくったり。曲にするかどうかはわかんないですけど、最近ちょっと気になった言葉があったんですよ。六曜社で働いてるときに、煙草を吸ってる女のひとがいたんです。そのお客さんが帰ったあとで、「今のお客さん、すごく笑顔がかわいかったね。煙草の吸い方もかわいかったよね」って話になったんです。そのときにいろいろ思い出したことがあって。大学のときに仲が良かったすごいかわいい女の子が、煙草吸ってたんですよ。わたし煙草がすごい苦手で、一緒にご飯食べたりお茶してても、その子が煙草を吸ってると、どっか違う世界に行っちゃう気がして悲しかったなあ、ってお話。でも、彼女もすごい煙草の吸い方がかわいかったんですよ(笑)。そういうのを曲にしたい、って思ったりして。


松永 ああー、いいですねえ。いい曲になりそう。


安藤 うまくいけば曲になるかもしれないし。六曜社にいるといろんなことが起こるのでおもしろいですね。


松永 昔、自分の心の悩みやくるしみを歌にしてたときよりも、作家として前進してますね。


安藤 うん。自分のことを発するばかりじゃない感じになりましたね。そうですねえ(笑)。でもわたし、最近考えてたんですけど、わたしって、この眉毛なんですよね。


松永 眉毛?


安藤 眉毛が、たぶん、わたしを決定させたんですよ。すごくいじめられたんですよ、子どものころ。すごく太いでしょ。


松永 すごく太くはない、かな。キュッと一直線で、意志が強い感じに見えるけど。


安藤 今はちょっと整えてるからいいんですけど(笑)。ほっといたら、ホントにバサッと毛虫がいるような感じになるので(笑)。やっぱり小中学校のころとか、イヤなこと言う男の子とかいたりして、そういうのがわたしをどんどん内にこもっていくような性格にさせたし、「ひとにどう思われてるんだろう? 目立たないようにしたい」とか、でもそういういろいろ考えてることや、つらい思いをなんとかしていかないと生きていけない状況になって歌をうたって。そういうところからはじまったんです。だから、そうですねえ、わたしの音楽活動は、眉毛とともに(笑)。


松永 なるほどねえ。眉毛とともに(笑)


安藤 今は「いいね」って言ってもらえたらうれしいですし、わたしも別に気にしてないですけど。


松永 安藤さんを内側にひっこめさせたものでもあるし、逆に、はたから見てると、安藤さんの秘めた強いものを表しているようでもあるし。眉毛に助けられてるところもあるんじゃないですか?


安藤 (笑)そうですね。眉毛に助けられてますよね……。ハハハハハハ。まさか眉毛の話になるとは(笑)。


(つづく)


ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その6