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なにかあり/とくになし

ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その7

休みの日だったので
昼間から「笑っていいとも」を見ていたら
テレホンショッキングのゲスト
羽田美智子さんが
可笑しかった。


おもに記者会見の受け答えなどで
数々の天然ボケを披露していたことが暴露されたのだが、
そのボケっぷりを如実にあらわしていたのは
あらかじめ用意されたネタではなく、
告知のポスターをうしろに貼ろうとしたときに
なにげなくもらしたひとことだった。


タモリさんがスタッフに
「おーい、これ貼っといてちょうだい」と呼びかけたのにつづいて
彼女は小声で
「貼っといてちょうだいください」とつづけたのだ。


小声だったし
あまりにもさりげなかったので
場内がすこしざわっとしたくらいでスルーされてしまったけど
ぼくにはそれが一番ぐっときた。


か、かわいいじゃないか。


ツボでした。


では今日も
安藤明子インタビューです。
もう7日目。
まるまる一週間続けました。
明日で最終回となります。


さてどういうふうに
ラストにたどり着くんでしょうか。
書いてるぼくも楽しみなのです。


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安藤 わたしは、音楽を聴くのがすごく好きで音楽をはじめた、とかじゃなかったというのもコンプレックスではあるんですよね。今も音楽のくわしいことがわかんないんで。松永さんは、すごく好きですよね、音楽?


松永 うーん。好きというのは間違いないですけど、それは、何とも説明しづらいものですよ。くわしさとかって、スタイルや固有名詞を頼りに物を集めたりするときの理由にしているような部分も人間にはあるし。本当は好きという感覚は、わくわくする感じとか、せつない感じとか、楽しいけど悲しい感じとか、そういうかたちにならないし言葉にしづらいものに反応するものだと思うし。そういう自分の心の動きを構成しているものが欲しくて、人間はいろんなものを探したりしてるんだろうし。それは音楽だけの話でもないですけど。


安藤 ああ、そうかー。でも曲を聴くときってそうですよね。


松永 だから本当はみんな、ジャンルや時代、アーティストにもこだわらず、いろんなものが聴けるはず。何故なら、感情はどんなタイプの曲にもあるし、そこを見つけたいわけだから。せつなさとか、楽しさとか、わけわかんない感じとか。安藤さん、全然コンプレックスに感じる必要ないですよ。


安藤 そうですか?


松永 安藤明子のつくってる音楽そのものが、「これはフォークです」とか、「これはこれです」みたいなことを言わずに済む濃度というか浸透力を持ってると思うんです。だから、いいんですよ、くわしくなくても。淀川長治さんも、歌舞伎を見るときは、独特の口調とかストーリーとか時代背景とか難しく感じるかもしれないけど、最初は「この役者さん好き!」みたいな単純な理由で好きになればいい、って言ってました。くわしくなりたいひとはそこからどんどん突き詰めればいいし、一生「この役者さん好き!」のままでいたっていい。好きだということに、何のコンプレックスも感じる必要ないですよ。安藤さんの音楽をいいと思ってくれてるひとも、みんなそうじゃないのかな。「自分はこれこれこういう音楽が好きだから」という前提があって、安藤さんの音楽を好きになってるんじゃなくて、そういう理由付けではないところで接してるというか。


安藤 確かに、わたしが普段うたってる場所は智恩寺手づくり市とかだったりするし、そこでは、普段音楽を聴かないひととかが、「CDなんか買ったことないけど、ちょっと聴いてみます」って買ってくれたりするんですよ。そしたら、うれしいんですよね。わたしもそういうひとだから。そういう感じで、このひとも生活の一部にわたしの歌をしてくれるのかなと思うとうれしいし、そうやっていろんなひとにも聴いてもらえてる気がして。


松永 安藤さんの歌には、生活にまぎれこむ力がある。だから、強いて「これはこういう音楽だからこういうふうに聴こう」と思わずに済むんですよ。「これは洋食だからナイフとフォークで食べなくちゃいけない」とか、そういう約束事から入る音楽では全然ないんですよ。


安藤 そうなんですか。


松永 今まで自分の音楽に対して、言われて一番うれしかったことはどういうものですか?


安藤 うれしかった言葉? なんだろう?


松永 おどろいた言葉でもいいですけど。


安藤 「こわいひとです」ですね。松永さんからそう言われたのが、はじめてでした。前に『オレンジ色のスカート』が出たときに書いてくれたじゃないですか。でも、ホントにそうやと自分でも思うから、びっくりしました。ハハハハ。わたしってこわいと思います(笑)。


松永 笑いながら言われても(笑)。でも、こわいですよね。本当に。


安藤 こわいですよ。結構、黒魔術じゃないですけど、念力をかけるんですよ(笑)。「こうなりたい」ってことを強く思うと、叶うかなあって(笑)。


松永 ぼくは結構、アンチほっこり人間なんですよ。ほっこりアンテナみたいなのがあって。


安藤 ほっこりアンテナ?(笑)


松永 「こいつ、ほっこりを売りにしてるな」と思ったら、なるべく近寄らないようなところがあって(笑)。安藤さんの歌は、ほっこりアンテナには引っかからないですよ(笑)


安藤 引っかからないんだ、よかった(笑)


松永 ほっこりしてるように思われがちだと思うんですけど、もっとこわいし、芯にひとを揺さぶる力がある。安心させないというか。


安藤 最近、「すごく何か重たいものをこのひとは抱えてる」って言ったひともいたんですよ。それもちょっとうれしかったですね。


松永 何か抱えてるんですか?


安藤 「抱えてるんかなあ?」って思いました。フフフフ。何かわかんないけど、抱えていかないといけないんだろうな、って。抱えてる限りはうたっていかないと、って。


松永 あんまり暗くなっても困るんで、言われてみて「ああ、抱えてたんだ」って気付くぐらいがちょうどいいのかもしれないけど(笑)


安藤 そうですね。「安藤さんには何かあるよ」って感じで言ってくれたときは「そうか、何かあるのか」って思うことにします(笑)。松永さんは自分が言われた言葉で、何がうれしかったですか?


松永 うーん……。うれしかったこと? うーん……。


安藤 難しいですよね。急に言われると。最近、何か褒められたり、言われたりしたことありました?


松永 褒められ慣れてないんです。「おまえ、適当だな」って言われたほうがラクですし。


安藤 ハハハハ。確かに(笑)


松永 結構、その場しのぎもあるんですよ。でも、いつでも心をこめてその場をしのげるように努力はしてるんですけどね(笑)


安藤 心をこめて適当に(笑)


松永 そういうふうになれるといいなあと思いますね。デコレーションケーキの職人さんが、クリームをひょいひょいと奇麗に盛りつけしてる映像とか見ると、そう思いますね。0.1ミリの狂いもないように見えて、実は適当にやってるのかもしれない、というような。ああいう境地に立てたらすごいでしょうね。もちろん、何十万、何百万回もあれを繰り返してるから出来るんでしょうけど。でも、何百万回も繰り返してても「毎日一緒だよ」とか思いながらやってたら、出来上がる盛りつけもつまんないだろうし。


安藤 あー、そうかも。


松永 「だれにもわかんないかもしれないけど、今日は実はここの渦巻きをちょっと大きくしたんだ」みたいなことをやってるかもしれないじゃないですか。


安藤 ちょっとアレンジして(笑)


松永 そういうの、いいなと思いますね(笑)


安藤 そうですね。「これ、だれのとこにいくかな?」とか思いながら(笑)


松永 「これ、今日の当たり!」みたいな(笑)。文章も「ここをこう狙ってこう書いたんでこういうふうに読んでもらわないと困る」とかは思わないんですよ。そう思って書いたかもしれないけど、あとは「どうぞ、ご自由に」みたいなのが好きです。


安藤 すらすら行かないときもあります?


松永 そういうときもあるけど、だいたいそういうときは別の理由ですね。眠いとか、お腹すいたとか(笑)。すらすらいかないときは休むのが一番いいのかも。粘土細工とかと一緒で、バランスがどこかで崩れたものに継ぎ足していっても、土台がしっかりしていないものは最終的に変なものになるだけだから、一回そこでやめちゃう。


安藤 一からやり直しとか?


松永 「今日はもう寝る!」とか(笑)……、こんな話でいいんでしょうか? 安藤さんのインタビューなのに。


安藤 いえいえ、こちらこそ。こういう話で大丈夫ですか?


松永 全然大丈夫ですよ。まあ、こういう話の方が読んでるひとも先が読めなくておもしろいんじゃないかな。


安藤 そうなんですよねえ。わたしもそう思います。バンさんとの会話も、そうなんです。もう会ってから3年弱くらい経ってて、仲良くしてもらってるんですけど、わたしが音楽のこととか何も知らないけど楽しくおしゃべりしてくれるので。バンさんが教えてくれるものはたくさんありますけど。CDも借りて聴いてみたりとか。


松永 ためになると同時にばかばかしいことでもあるとか。その両方があるのがいいと思うんですよね。バンヒロシという存在についてもそれは言えると思うんです。マーク・ボランに直撃してサインもらったとか、中学生のときにユーミンとお茶したとか、そういう突拍子もなくすごいことがバンさんの人生にはいっぱいあって、それはバンさんにとってプラス100な出来事だけど、同時にゼロでもある、みたいなね。そういう底の抜けたさわやかさというかチャーミングさがバンさんにはあって(笑)。プラス100だけをひたすら数えて積み重ねる人生って、結構あざというというか、やらしいですよ。そういうところがバンさんにはないし、楽しいですよ。


安藤 そうですね。楽しいですよね。


松永 だから安藤さんにも楽しく音楽を続けてほしいです。もっといろんなひとに聴かれてほしい。ぼく以外にも「こわい」って思うひとも、まだいっぱいいると思うし。「こう聴かなくちゃいかない」とか「こう聴け」みたいなことは言いたくないんです。安藤さんが安藤さんのペースで音楽を続けていけたら、何も気にする必要はないんですよ。「重いと言われたから、軽くしよう「とか、「こわいと言われたからやさしくしよう」とかも思わないで大丈夫(笑)


安藤 はい(笑)


松永 でも、今日話を聞いたかぎりでは、ひとに流されて音楽をやってはいないですね。安心しました。


安藤 たぶん、すごい頑固なんですよ。それは譲れないというのがあって。なので、こわいままだと思います(笑)。


(つづく)


ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その7