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なにかあり/とくになし

スカートは実在した! 澤部渡インタビュー その4

スカート澤部渡インタビュー
第4回。


ギターを手に入れたきっかけ、
そして
スカート澤部にとっての
音楽ともうひとつの柱、
漫画の話がいよいよ始まります。


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松永 楽器はいつごろから弾くようになったの?


澤部 小学生でした。お恥ずかしい話なんですが、小学生のころはゆずが好きで…


松永 いや、澤部くんの年代なら恥ずかしくはないでしょ。


澤部 ゆずを聴いていて「これはギターを買わなければ」という気になりまして。それで象さんギターみたいな小さいのを小学生のときに買ってもらったんです。でも、そのギターには、なんか違うなーという違和感もあって。あるとき、フリーマーケットにおじいさんと一緒に出かけたら、アコースティック・ギターが千円で売ってあったんです。おじいさんにねだったら、買ってくれることになりまして。売ってるひとに「袋はないんですか?」って訊いたら、「ないから800円でいいよ」という話で。そのギターは、こないだrojiでやったワンマン・ライヴ(2011年10月2日)のときも使いました。70年代初頭ぐらいに作られた、すごくいいギターだったんですよ。


松永 小学生でしょ? まだ本物のギターは大きくなかった?


澤部 サウンドホールより上のところでピッキングしてましたね。


松永 じゃあ、それくらいから耳で聴いたいろんなものをコピーというか真似しはじめて。


澤部 でも割とちゃんとスコアも買ってやってましたね。


松永 歌を自分で作るようになったのは、いつぐらいから?


澤部 あんまり覚えてないんですよね。子供の頃から作ってたような気はするんですけど、どんなんだったかは思い出せなくて。はっきり覚えているのは中学生ぐらいからですね。


松永 最初の頃に作ってたのはどういう曲?


澤部 歌う自分の声が嫌いだったんで、ずっとインストっぽいのを作ってましたね。サンプラーをお年玉で買って、変な音楽を作ったりしてました。……そうだ! 高校一年のときに先輩と組んでたバンドがあって、それでESPか何かの主催したライヴに出たんですよ。そのときにギタリスト部門でぼくが賞をもらったんです。その賞品がESPで使える商品券で、それで中古のカセットMTRを買ったんです。「これ、買うしかない!」と思いましたね。そこからレコーディングというものを意識しはじめて。


松永 すごいね。ギタリスト賞。もうすでにテクニックついてたんだ。


澤部 そういうことなんですかね? 見た目がおもしろいから賞もらえたんじゃないかと自分では思っているんですが…(笑)


松永 じゃあ、そのMTRを買ったあたりから、スカート的なものの前触れというか、プレ・スカートははじまったのかな。


澤部 とにかくMTRを買ったことは大きかったですね。でも、その年に、もうひとつ漫画を自分で掘り当てる楽しみというのもはじまってるんです。木村紺さんの『神戸在住』って漫画があるんですけど、あれを高校一年のときに買ってるんです。たまたま本屋で見つけた表紙があまりに良かったんですよ。「これは読まなきゃダメだ!」と。しかもそれはコミックの1巻じゃなくて、5巻だった。なのにそれを最初に買ったんです。読んでみたら内容も最高で、世の中にはいい漫画がいっぱいあるんだなと思って掘りはじめて。



松永 いったいどういうところが最高に思えたんだろ?


澤部 いや、もう『神戸在住』って、本当に神戸の大学に通う女の子の一日を淡々と本人目線で描いていくって漫画で。そういう漫画をそのときまで読んだことがなかったんですよねえ。


松永 でも、その説明だけだと、あんまりたいして魅力的にも感じられないんだけど(笑)


澤部 なにが魅力的だったのかな……? もちろんお話もいいんですけど、たとえば作画で言えば、スクリーントーンとか使ってないんですよ。全部手描きで。フキダシの文字以外は全部手描き。そういうところも好きでしたね。絵もめちゃくちゃ好きでしたね。


松永 こじつけかもしんないけど、なんでも全部自分でやっちゃうところに自分と通じるものを感じたとか? 冬目景も好きでしょ? あのひとも、手描きだよね。『ストーリー』のジャケットを描いてくれた見富拓哉さんの絵もそんな感じ。


澤部 ちょうどいい人肌加減っていうんですかね。そういうものが漫画に対しても重要なんじゃないかなと思ってるのかもしれません。


松永 「少年ジャンプ」とか読んでないの?


澤部 ほとんど読まなかったですね。小学生のころから「ドラえもん」とか、藤子F不二夫のSF短篇集とかが家にあったんで、それを読んでました。


松永 そうなんだ。じゃあ、MTRと『神戸在住』で、音楽の目覚めと漫画の目覚めが一緒に来たということだ。


澤部 時期的には漫画のほうが先だったとは思うんですけど。あと、漫画で好きになったのが、小原愼司さんの『菫画報』! これを読んだのも、高一か高二でした。柳沼行さんの『ふたつのスピカ』が好きだったんです。それで、あの漫画が掲載されていた『コミックフラッパー』を読んでたら、一緒に載ってる小原愼司さんの連載『二十面相の娘』という漫画もおもしろそうで。コミックを買ったら、やっぱりおもしろかったんですよ。それで、このひとの他の漫画も読んでみようと思って調べたら新刊ではあんまり出てない。そのときにたまたまブックオフに行ったら『菫画報』が3巻以外全部揃ってたんです。『菫画報』は石黒正数さんの『それでも町は廻っている』の源流だったりするんですよ。



松永 ああ、作者の石黒さんもそれを認めたという。


澤部 そう。『菫画報』が好きで、「おれの『菫画報』を描かせてください」という思いで『それ町』(「それでも町は廻っている」のこと)を描きはじめたという!


松永 スカートにも「スミレとヘルメット」って曲あるよね。あの曲のモデルも『菫画報』?


澤部 あれは、稲垣足穂に同じ名前の作品があるんで、そこからです。『菫画報』を読んだころに、高校の美術の先生から稲垣足穂を教えてもらって、「どんなもんかしら」なんて図書室で読んだんですよ。そしたら「これはすごい」と。『菫画報』とか、あがた森魚さんのやってたヴァージンVSとか、あの原典は稲垣足穂なのかと納得がいって、どんどんつながっていったんです。だから『神戸在住』も大好きですけど、よりカルト的な影響で言えば『菫画報』が大きいですね。


松永 この世界を音楽でやりたいと思ったんだ。


澤部 そうですねえ、思いましたねえ。すごいんですよ、『菫画報』は本当に。今は絶版なんですけど。小原さんには『ぼくはおとうと』というコミックもあるんですが、すごいぶっとび加減で。あれも稲垣足穂的世界だったのかな、なんてあとで気づいたりもしました。



(つづく)


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スカート ワンマントーク&ライブ ODAIBA MUSIC CLOUD vol.1
お台場TOKYO CULTURE CULTURE


5月25日(金)
Open 18:30 Start 19:30 End 21:30 (予定)

前売り券1800円 当日券2300円(飲食代別途必要・ビール¥600など)


【ライブ】スカート(澤部渡
トークライブ・ゲスト】北尾修一(太田出版) 阿久津真一(元エピックレコード)
【企画・司会】テリー植田(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)


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もうひとつスカートのライヴ告知。


@幡ヶ谷forestlimit
「odori猫+ n°7」


5月15日(火)
開場19:00/開演:19:30
1000円+1D order&餌付き


出演
odori猫/スカート/ワールドイズコインタウン


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