mrbq

なにかあり/とくになし

スカートは実在した! 澤部渡インタビュー その5

スカート澤部渡インタビュー、
第5回。


全9回と予告していましたが
その後の調整で
全7回くらいにおさまる感じかなと。


すこし“巻き”でまいりましょう。


今回は
漫画の話のつづきと
お兄さんの話と
大学入学後の話をする澤部渡です。


===================================


松永 漫画は漫画、音楽は音楽、みたいに分けて考えるタイプの人もいるけど。


澤部 漫画を読むと「うわあ!」って気持ちになって、そこから曲が出来るみたいな、そういう感じはありましたね。あと、漫画を読むときに、好きな曲のタイトルとかが引用されてるものを探して読んでみたりしてたんで。それこそ冬目景さんの『イエスタデイをうたって』(RCサクセションの曲名)とか。また『神戸在住』も結構音楽の話が多いんですよ。



松永 聴いたことないCDを聴くような気分で漫画を買い、その漫画を読んで曲が出来る……、それって結構いい関係かもしれない。


澤部 あと、そういえば、母の本棚のなかに一冊だけ、大島弓子があったんです。文庫本だったんですけど、そのなかにあった「ジョカへ」って話を高校生のときに読んですごく感動して。ネットで調べて少女漫画の世界に花の24年組ってのがあることとか知ったり。大学に入ると、それまでは池袋くらいで止まってた行動範囲が新宿、中野へと広がっていったんです。中野には「まんだらけ」がありますからね。そこで萩尾望都の赤い表紙の全集をごっそり買ったり……。なにかひとつきっかけがあって、そこから糸をほどいていくというのが好きですね。


松永 ちなみに漫画は漫画喫茶で済ますのではなく、実際に買う派?


澤部 そうですね。漫画喫茶には、あんまり行かないですね。でも、だから実は結構重要な漫画を読み落としてたりしちゃうんですよ。実は『まんが道』とかはまだ読めてない……(笑)。あれだけ漫画好きだったら、当然読んでるっしょ、みたいな世界じゃないですか。でも、今から手を出すには巻数も多いし、敷居も高いし(笑)


松永 笑える! あの漫画好きで知られるスカート澤部渡が、実は『まんが道』は読んだことなかった!(笑)


澤部 いや、カミングアウト出来て、今、気がちょっと楽になりました(笑)


松永 コミティア(年4回開催されるオリジナルの創作漫画の同人誌フェアのこと。スカートも会場限定でCD-Rを販売している)にはそのころから行ってたの?


澤部 いやいや、ここ一年くらいなんですよ。ぼくが行ってるのはコミティアだけで、コミケは行ったことなくて。兄はコミケに行ってますけどね。


松永 え? ちょっと待って。澤部渡に兄がいた?


澤部 ええ、実はぼくの兄はオタクで(笑)。でも、あんまり上品なオタクじゃないんですよ。家にいるときに電話がかかってきて、「今、駅だから車で迎えに来てくれ」っていうんです。で、迎えに行くと初音ミクのTシャツ着てそこにいて。「うわ! こいつは本当に品がないな!」と思ったり(笑)。2歳上なんですけど、ちゃんと働いているということしか尊敬出来ないです(笑)


松永 へえ。よく兄姉の影響で音楽聴くようになったりとか、そういう話はあるものだけど。


澤部 兄の影響は、ほとんどないですね!(笑)。


松永 実の兄の話をそこまでぶっちゃけちゃって大丈夫?(笑)お兄さんは弟がスカートというバンドをやっていることには興味ないの?


澤部 あんまり興味ないみたいですよ。でも、『ウレぴあ』のコラムで近藤チマメさんがスカートのことを書いてくれたときには、ツイッターでわいわい言ってたらしいですけど。


松永 「らしいですよ」って(笑)。お兄さんとはフォローしあったりしない関係なの?


澤部 震災のときに、やっぱりフォローしといたほうが安否確認出来ていいなと思ったんですけど、状況が落ち着いてから外しました(笑)。兄は本当にイタい系のオタクなんですよ。部屋に「アイドルマスター」のポスター貼ってあるし。でも、母に言わせると「あなただって部屋に細野さんのポスター貼ってるでしょ? それっておなじことなんだから、あんまりとやかく言うのはおよしなさい」って。


松永 さすが澤部家のお母さん、いいこと言う(笑)。……えっと、話は澤部くん本人に戻るけど、大学は昭和音大(作曲学科)だよね? そこでの澤部渡は、変わり者ではなかった?


澤部 音大というと、似たような目標を持った人たちが集まっているというイメージで、みんなが目標に向かって切磋琢磨するんだ、ぐらいのつもりでいたんですけど、入ってみたら、あんまり熱心に音楽を聴いている人がいなくて(笑)


松永 えー?(笑)


澤部 いや、今思えば、僕ぐらいの世代では、それはしょうがないことなんですよ。デヴィッド・ボウイが好きだという女子を見つけて、「きみ、デヴィッド・ボウイが好きなの? ぼく『ロウ』(77年)が好きなんですよ」って言ったら、「好きだけど、わたし、『ジギー・スターダスト』(72年)と『リアリティ』(03年)しか聴いてないの」って返事だったりして。間空き過ぎだろって!(笑)。学校の授業で「好きなロック・バンドを挙げる」みたいなのがあったときに、XTCだとわかんないかなと思ったんで「ザ・フーが好きです」って言ったら、みんなの反応は「ザ・フー? 誰それ?」みたいな(笑)。


松永 ダジャレじゃないんだから(笑)


澤部 そういう細かい挫折は続きましたね。でも、3年のときに後輩でムーンライダーズXTCYMOが好きだってやつが入ってきたんです。それが今回の『ストーリー』でもピアノを弾いてる佐藤優介(カメラ=万年筆)なんですけど。その年に、すごく楽しい授業も始まって。そこからようやく大学生活が楽しく思えてきて。


松永 楽しい授業って、いったいどんなの?


澤部 元トラットリア・レコードの牧村憲一さんの授業を3年になってから受けはじめたんです。


松永 へえ。それはどういう科目なの?


澤部 えーと、音楽史の概論みたいな授業なんですが。


松永 ポップ・カルチャー史みたいな?


澤部 そうですそうです。朝9時の一番早い時間の授業なんですが、早いからみんな遅刻してくるんですよ。なかでも一番早く来た人たちだけを相手に「今からゴダールの短篇を見ましょうか」とかやるんです。「こういうおもしろいものは少ない人数で見よう」とか言って。


松永 へえ!


澤部 牧村さんは授業にどんどんそういうものを持ち込むんです。ジェームス・テイラーのことを授業でやるときも、昔の珍しい映像を見せてくれたり。そういうのがぼくには最高で。ジェームス・テイラーなんて正直言ってぼくには膨大な過去の音楽のうちの一部で、きっかけがなかなかつかめなくて、それまでちゃんと聴いてこなかったんです。それに、シンガー・ソングライターっつうのは歌だけの人たちだと思ってたんですけど、楽器がいかに歌うかということも重要なんだなって勉強しました。そういう感じで牧村さんの授業は音楽の裏にあるものがよくわかる、というか……。


松永 そうか。スカートも牧村チルドレンのひとりだったんだ。フリッパーズ・ギターファミリー・ツリーの端っこに入った(笑)


澤部 ははははは(笑)。入れたらいいっすねえ! でも、本当に3年になってから、牧村さんの授業だけじゃなくて、全体的にも授業の格がぐんとあがったんです。


松永 ようやく音大に来た甲斐が見出せた感じなのかな。ところで、澤部くんの学部を卒業する人たちの進路って、一般的には何が一番多いの?


澤部 やっぱり、フリーターですね。ぼくの同期では、ひとりアパレル関係に就職しました。「アパレルかー!」って思いましたね(笑)


松永 (笑)。フリーターが多いっていうのは、高い志の表れであったりもする?


澤部 半分半分ですね。


松永 で、澤部渡の進路はどうだったの?


澤部 ぼくは一応、フリーターです(笑)。大学時代から勤めてる本屋のバイトをそのまま継続するという暴挙に出ましたね……。


松永 あらまあ(笑)。


(つづく)


===================================


スカート ワンマントーク&ライブ ODAIBA MUSIC CLOUD vol.1
お台場TOKYO CULTURE CULTURE


5月25日(金)
Open 18:30 Start 19:30 End 21:30 (予定)

前売り券1800円 当日券2300円(飲食代別途必要・ビール¥600など)


【ライブ】スカート(澤部渡
トークライブ・ゲスト】北尾修一(太田出版) 阿久津真一(元エピックレコード)
【企画・司会】テリー植田(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)


なお、この顔ぶれでの
スカートのロング・インタビューが
こちらで公開がはじまっています。


===================================


スカートHPはこちら