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なにかあり/とくになし

スカートは実在した! 澤部渡インタビュー その6

スカート澤部渡インタビュー
第6回。


話はだいぶ佳境に入ってきて
いよいよスカートそのものの話に。


さくさくといきましょう。


あと、思い出したんですが、
このブログではじめてスカートのことを書いたのは
この日でした。


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松永 でも、その卒業の前に、卒業制作の代わりといってはなんだけど、スカートのファースト・アルバム『エス・オー・エス』を作るわけでしょ? そもそもスカートという名前は大学一年のときに生まれて、バンドとしても一、二年ほどやって。でも、『エス・オー・エス』のときはバンドというより、澤部渡ソロ・プロジェクトとして、いろんな音楽集大成みたいなものになってた。それはなぜ?



澤部 ……いやあ、たぶん、入れたい曲を考えてたら、そうなっちゃっただけだと思うんですよ。


松永 受け取り方にもよるんだけど、曲によってスタイルもミュージシャンも変えるこだわりの人、録音オタクなのかな? とか思ったり。


澤部 身も蓋もない言い方になりますが、それは、録音時期がバラバラだからなんですよ(笑)


松永 でも、それでいて、いわゆる宅録オタクの音楽ではない、というのもスカートの重要なポイントなんですよ。たぶん、ぼくがスカートというか澤部くんの存在を知ったのは、『エス・オー・エス』が出る前なんだよね。なぞなぞに答えたらCDRを送ります、と、ぼくのブログで書いたときに応募してくれたでしょ。そのときに「スカートというバンドをやってます」と書いてあったのか、それとも、何かのきっかけがあって澤部くんのブログにたどり着いたのか。いずれにせよ、その時点では、「そうか、この若者はスカートというバンドをやっているのか。なんか音源を作ってるって書いてあるな」ぐらいの認識でしかなかった。ちょうどその前後あたり、去年(2010年)の秋ぐらいかな、カクバリズムから「今度、ceroってバンドをうちから出そうと思ってる」って話を聞いてて。その時点ではceroとスカートの接点は、ぼくのなかではまったくなかったんだけど、そのうち、昆虫キッズやシャムキャッツ、王舟なんかの名前と一緒にぼわぼわっと浮上してきた。


澤部 なるほど。


松永 昔から知っていた高橋くんはともかく、ceroとかと絡むようになっていったのは、やっぱり昆虫キッズを手伝うようになってからのこと?


澤部 そうですね。昆虫の高橋くんとceroの高城くんとは確か同い年で。ceroとぼくはどうやって仲良くなったんだろう? 今でも仲良しなのかどうかあやしいですけど(笑)。いや、ぼくは仲良いつもりで思ってるんですけどね。向こうがどう思ってるかまでは計り知れないんで。ハハハハハ(苦笑)。実際にceroのライヴを初めて見たのは、『WORLD RECORD』が発売されてからなんですよ。漫画家の西村ツチカさんが、「ceroのアルバム、すごいよかった」って言ってたんです。じゃあ、ぼくもと思って買ったんですが、聞いてみたら「チクショウ、うらやましいな」って(笑)。前々からceroの話は聞いていたんですけどね。ceroのことは、音楽的にもうらやましく思えて。


松永 どうして?


澤部 ぼくの『エス・オー・エス』とか聴いても、全然フレッシュさがないじゃないですか!


松永 いやいやいやいや(笑)。フレッシュだったでしょう、十分に。ファースト・アルバムだよ?


澤部 自分で聴いても、くすんだ色合いがあるんですよね。


松永 でも、老成した音楽ではないですよ。


澤部 だけど、年相応な音楽という感じは自分でもしなかったんですよ。「おれは本当に22歳か?」って思いましたもん(笑)。それですごい落ち込んだ時期があって。


松永 どういう落ち込み方なんだ、それは(笑)


澤部 いやなんかこう、その……。


松永 落ち込む以上に、聴いてる人の気持ちがあがるものを作ってるでしょうに。


澤部 いやあああああああ(首を振る)、どうなんですかねえ? 本当に。


松永 もっと十代な、青臭いものにしたかった?


澤部 いや、そういうつもりもあんまりないんですけどね。ceroとかには、問答無用に叩き付けてくるフレッシュさがある。あれがうらやましいんです。


松永 でも、『エス・オー・エス』を作ってるときは、そういうことも思わずにレコーディングしていったわけでしょ?


澤部 とにかく録ってましたね。これ作って、これ作って、次はこれ作って、みたいな感じ。


松永 覚えているなかで、一番最初にスカートを褒めてくれたのは誰? 『エス・オー・エス』以前の話でもいい。スカートを最初に認めてくれた存在というか。


澤部 いろんな人に褒めてはもらいましたけど……。やっぱり、熊谷耕自ですね。ぼくが最初に作ったデモを聴いて「ベースラインがいい」って『indies issue』に記事を書いてくれて。近藤チマメさんのコーナーにちょこっと間借りして、彼が連載をしていた時期があって、そこで「最近良かったのは、スカートの『スミレとヘルメット』という曲で、この曲はとにかくベースラインがいい。我々の世代のシュガーベイブだ」みたいなことを書いてくれてて。それがとにかくうれしかったですね。でも、本人はそれを書いたことを今では覚えてないんですよ(笑)。だけど、外に開けるような褒められ方をしはじめたのは、『エス・オー・エス』を出してからですね。


松永 ぼくも『エス・オー・エス』の存在は気になりつつ、結局、決め手になったのは、ココナッツ・ディスク吉祥寺店の矢島店長がお店のブログでアルバムと「ハル」のPVを紹介してたのを、しばらくして発見したから。あれを読んで、一気に「買うわ!」と。(そのブログはこちら


澤部 おー! うれしいっすねえ!


松永 澤部くんは「何でもあり」というか、何でも出来る人だと思うんだけど、そこで余裕こかれてるようだったら、それは鼻についてイヤなわけ。やっぱり、そういう余裕を振り切る切迫感というか覚悟みたいなものが、ぼくは欲しい。そういう意味で、『エス・オー・エス』には、ぼくの好きなタイプの切迫があった。とにかく、澤部くんは何でも出来る人だという話を聞いてたから。「なんでもほいほいやれますし、やりますよ?」なんて鼻歌まじりな感じでやられちゃうと、ぼくはあんまり聴く気がしなくなっちゃう。追い立てるのか、追い立てられてるのか、どっちかがあるのがいい。『エス・オー・エス』にはそれがある。そこがいい、と思った。


澤部 そうですよね。イヤな緊張感がありますよね。


松永 澤部くんは、ひとりで真っ当にあっぷあっぷしてるというのかな、そういう感じがしたんですよ。まあ、本人に「あっぷあっぷしてますよね?」という質問は成り立たないけど(笑)


澤部 でも『エス・オー・エス』は、気持ち的に一番あっぷあっぷしてたときはもう過ぎた時期に作っているんですよ。一番やばいと思ってたのは大学2年くらいのときでしたけどね。それこそ音大きたけど友達できない、みたいな状況でしたから。バンドははじめてましたが…。で『エス・オー・エス』のときは、「なんとか評価されないと、この先まずいぞ」みたいな気持ちではありましたね。普通だったら、CD-Rをちょっとずつ出して注目されて、というのがスジなんでしょうけど、はっきり言って、ぼくのレコードをCD-Rで出しても、それが若者たちのあいだで伝播していくとは思えなかったんで、ならばCDを作ってしまおうと。いきなり全国流通に乗せなきゃダメだと。


松永 ジャケもちゃんと作って。でも、今度出るセカンド・プレスから、イラストは同じ廣中慎吾さんだけど、まさかの別ヴァージョンに変わってしまうんだけど(笑)。評判の良いものを、セカンド・プレスからパッケージを変えるという発想もすごいけどね(笑)


澤部 ハハハハハ!


松永 「あのジャケ、最高ですよね」と自分でさんざん言っておいて、おまえ?! みたいな(笑)



澤部 まあ、せっかく一年経って再プレスするんだから、聴く人も作る人もお互い気分は変わってるだろうし。あと、音楽のライヴ以外での弱点は視覚じゃないかって気がしてて。レコードのジャケットなんて、よっぽどのことがないかぎり変わんないじゃないですか。それを変えたいとみんなに主張するほどじゃないですけど、自分はそうしたいと思ったんです。最初のジャケットには思い入れもあるし、気持ちの表れとしては最高なんですけどね。音楽にはもっと違う面もあるはずだし、聴き方はひとつじゃないと思ってるんで。


松永 新しいジャケットもいいよね、確かに。着せ替え人形みたいにして聴くのかな。今日はこのジャケの『エス・オー・エス』だけど、明日はこっちのジャケで、みたいな。


澤部 それ、おもしろいですね。


松永 セカンド・プレスも売り切れて、今度はサード・プレスでまた違うヴァージョンのジャケが登場したりして。


澤部 そうなったらいいなあ。


(つづく)


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スカート ワンマントーク&ライブ ODAIBA MUSIC CLOUD vol.1
お台場TOKYO CULTURE CULTURE


5月25日(金)
Open 18:30 Start 19:30 End 21:30 (予定)

前売り券1800円 当日券2300円(飲食代別途必要・ビール¥600など)


【ライブ】スカート(澤部渡
トークライブ・ゲスト】北尾修一(太田出版) 阿久津真一(元エピックレコード)
【企画・司会】テリー植田(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)


なお、この顔ぶれでの
スカートのロング・インタビューが
こちらで公開がはじまっています。


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