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なにかあり/とくになし

スカートは実在した! 澤部渡インタビュー その1

突然ですが、
今回から特別企画で
うわさのワンマン・ポップ・ユニット、スカートこと澤部渡くんの
ロング・インタビューを連続で掲載する。


このインタビューは
セカンド・アルバム『ストーリー』発売直前の去年の12月初めに行ったものに
その後の追加取材やメールでのやりとりも加えて構成したものだ。


もともとは
オフィシャルなインタビューとして
スカートのサイトかどこかで発表するつもりで進めていたのだが、
『ストーリー』が手作りのインディーズCDとしては破格の売れ行きを続け
スカートへの注目度も大きくあがった今となっては
オフィシャルというには
話題がタイムリーではなくなったような気がしてきた。


この時点でのスカートは
一部で高い評判こそ受けていたものの
まだまだライヴの動員にも苦戦していて
それもあってか充実の作品が出来た割に
澤部くんも結構自信なさげなところもあったりする。
あらためて読み返すと
そこがおもしろいところだったりもするのだが。


というわけで澤部くんとも相談し
このインタビューは
『ストーリー』以前のスカートの歴史を知るためのマテリアルとして
松永良平のブログに出張掲載をさせていただくというかたちで
落ち着かせることにした。


この5月25日にはお台場カルチャー・カルチャーで
スカートのワンマン・ライヴ&トークが予定されている。
その公開インタビューのための副読本というか前準備として
読んでいただくのもいいかな。


たぶん全9回くらいの掲載になると思う。
分量は約2万字。
どうぞ最後までおつきあいください。


エス・オー・エス』と『ストーリー』を聴きながら、
コミティア99』とか『100』とかもお持ちのかたは
そちらも繰り返し聴きながらどうぞ。


連載のタイトルは
「スカートは実在した!」
にする。


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まえがき


 スカートは実在した!
 『ストーリー』の全7曲入りでミックスも終了した音源をいただき、一気に20分を聴き通し、最初に口から出たひとことが、それだった。


 スカート=澤部渡。24歳に、ついこないだなったばかりの若者が、大学の卒業を前に宅録や友人たちとレコーディングした曲を集めて去年の暮れにリリースしたファースト・アルバム『エス・オー・エス』には、素直に驚かされた。
 粒ぞろいの曲を書く若きマルチ・ミュージシャンという呼び声に恥じない完成度の高さに驚かされたんじゃない。万能なのに闇雲、達者なのに切迫、頭脳的なのにチャーミング、シティ・ポップなのにパンク、ギター・ポップなのにブルース、ついでに言えば、繊細なのに巨体。才能が、バランスとアンバランス、完成と未完成のあいだをかいくぐって、にょきにょきと伸びてきて、その伸びた右手で背後から申し訳なさそうに肩を「松永さん」と叩かれたような気がした。
 青春をうまく扱いかね、耳年増である自分を恥じらいながらも、同時代らしく、年相応に恋をして生きたいと願うスカートの『エス・オー・エス』に、ぼくは他人とは思えない親しみを感じた。ぼくと澤部くんの年齢は、下手したら親子ほど違うのに、ぼくにとって、スカートの音楽は、「懐かしいな、こんなころ、おれにもあったなあ」と遠い眼をして聴くものではまったくない。むしろ、その逆だ。出来事のひとつひとつがノスタルジアに美化されることをスカートは許さない。淡々とうつろう日常を生きている人間が「はあ?」「うえ?」「げげ!」「あ?あ」「よし!」「え?」と吐き出す、言葉にならない言葉ににじむ切実な感情を、体も張って気も張って音楽にしている。そこにあるのは、明るい未来やきっと叶う恋心みたいな大雑把な絵空事ばかりを現実だと言い張って歌うポップスにはなしえない、すぐれた漫画に描かれているような、絵空事だからこそ言えるリアリティなんだ。


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第一回


松永 ファーストの『エス・オー・エス』の発売がちょうど一年前の12月15日でしょ? 新作の『ストーリー』も12月15日発売。12月15日は、スカート記念日かよ、って?(笑) でも、思ったよりずいぶん早く新作が出来たという印象はあるなあ。


澤部 「ストーリー」という曲が出来て、これは何とかしないと、と思ったんですよ。良い曲が出来たから、なるべく早めにリリースしたくて。それで夏ぐらいにベーシックを録音したんです。そこから歌を録って、ミックスして。


松永 録音はどこで?


澤部 普段だったら家で録るんですけど、今回はバンドで録ろうと思っちゃったんで。バンドで録れるところがどこかないかな、って探したら、南池袋にミュージック・オルグというライヴハウスがあって、そこが録音が出来るぞと。


松永 そうなんだ。あそこはレコーディングとかも出来る環境なの?


澤部 友達だから貸してくれたというのもあると思うんですけど、意外と他のバンドでも録音をしているらしいですよ。ぼくの場合は、シャムキャッツとかの音を録っている馬場ちゃんという女の子がいて、その子の口利きです。ドラムは普通にライヴ・スペースで鳴らして。ベース・アンプはトイレに、ギター・アンプは楽屋にぶちこんで。そうすると同時に録音が出来るという仕組みでやりました。


松永 ということは、今回は最初からバンド感のある音にしようと思ってたんだ。


澤部 いや、これもいろいろと紆余曲折がありまして(笑)。最初は宅録で「ストーリー」をやろうとしてたんです。それを一曲目に置いて、カップリング的なものを考えて……、えーと、でも、どっから話せばいいんだろう? 最初は5曲入りぐらいのシングルにしようと思ってたんですよ。で、500円くらいで売るのがいいかなと。それじゃあカップリングの曲を録るためにバンドでスタジオを押さえて、という段階で、宅録のほうが行き詰まっちゃって。良い音は録れてる気もするし、良いヴォーカルも録れてる気はするんだけど、なんとも先に進まない感じがあって。


松永 なるほど。


澤部 じゃあカップリングを録る予定の日に、「ストーリー」も録ってみようとやってみたら、バンドでやったテイクのほうがすごく良くなっちゃって。それで、こういうことになったんです。


松永 まあ、スカートというのは、バンドと名乗っているわけだけど、澤部渡のプロジェクトというかユニットなのかな。


澤部 なんなんでしょうね… ぼくはバンドだとは思うけど…


松永 こないだPOP鈴木さんのドラムスとふたりでやったライヴ(下北沢シェルター)のときに、「100人メンバーがいれば100通りの音があるというのがスカートなんで」とMCしていて、確かにあの日はすごいパンクな感じの演奏だったし、その都度変わるのがスカートなのかな、なんてぼくも思った。『エス・オー・エス』も、曲によって全然メンバーの編成もアレンジの感じも違うしね。でも『ストーリー』は、決まったメンバーで一気にやり抜いてることで、聴く側としてはバンドとしてのスカート像がものすごくつかみやすくなってる。


澤部 そうですね。すごいキャッチーな曲が集まりましたしね。


松永 もちろん曲もキャッチーなんだけど、むしろ重要なのはバンド感だよね。あの4人で完璧ってことではないのかもしれないけど、現実にいる人たちが現実に鳴らしている音だと素直に思える。「これがスカートです宣言」みたいに聴こえる。本人的にはどうなのかわかんないけど、そこがすげえいいなと思ったわけ。もちろん、『エス・オー・エス』にもビックリしたけどね。あれを作ったのは22歳のときだっけ?


澤部 21歳から作業をはじめて完成したのが22歳でした。


松永 それぐらい年齢の人があんなにいろんな曲を書いて、宅録やいろんな人を使ったりして、これだけやれるのはすごいなと思って。それが『ストーリー』では、バンドの姿でおもてに出てきたって感じ。だから「スカートは実在した!」と言いたい。


澤部 なるほど(笑)。


(第2回につづく)


構成 松永良平


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スカート ワンマントーク&ライブ ODAIBA MUSIC CLOUD vol.1
お台場TOKYO CULTURE CULTURE


Open 18:30 Start 19:30 End 21:30 (予定)

前売り券1800円 当日券2300円(飲食代別途必要・ビール¥600など)


【ライブ】スカート(澤部渡
トークライブ・ゲスト】北尾修一(太田出版) 阿久津真一(元エピックレコード)
【企画・司会】テリー植田(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)


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ちなみに
松永良平が以前に掲載した連続インタビュー企画はこちら。


ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー