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なにかあり/とくになし

ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その8

「松永くん
 おれは怒ってるんだ」


大江田さんが
しずかな怒気をはらんだ口調で言った。


緊張が走る。
なにかまた
しでかしたかしら……。


「こないだの
 安藤さんのインタビューに出てきたぼくのことだよ。
 ありゃなんだ!」


それはこの日のブログのことだった。


「ひとがまじめに安藤さんのことを語っているのに
 “長くなりそうだから”とはなんだ!」


し、し、失礼しました!


と、謝罪しつつも
「あそこで先を書かないことが
 大江田さんが安藤さんのことをもっとしゃべりたいという
 真剣な気持ちのあらわれを示す演出になっているんですよ」
と言い返してみた。


しかし
この言葉がさらに怒りに火を注いでしまった。


「なにが演出だ!
 もっと失礼なのは
 あそこに書いてあることが
 あの日のまさにそのままだってことだよ!
 松永くんはぼくの言うことをさえぎって
 あの先なんか聞かなかったじゃないか!」


てへー!(苦笑)


「笑うなー!」


そのままふたりは
お客のいない店内で
とっくみあいの大げんかに……(ウソです)。


まあ、
安藤さんへの大江田さんからの好意は
いつか直接彼女に伝えるのが筋だと思う。
願わくば近いうちに
東京のどこかで。


安藤明子インタビュー、
おかげさまで本日で最終回となります。
おつきあいいただきありがとうございます。
安藤さんのご家族にまで読んでいただいてるようで
恐縮しきりです。


では最後まで
どうぞよろしく。


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安藤 今日のラジオの収録(NHK-FM小西康陽 これからの人生。」)は、すこしへこみました(笑)


松永 何でですか? 小西さんはうれしかったと思いますよ、安藤さんに出てもらって。昔、テレビに出たときのことを思い出したからとかですか?


安藤 うたうだけだったらいいけど、自分が出演者としてしゃべるというのが恥ずかしかったですね。「ホントに思ってたことを言えたのかな?」とか、「変なこと言っちゃったかも」とか。まあでも、そういうふうに思うのは、自分が大事すぎるんですよ、わたし(笑)。だれもそんなに気にしてないよ、って思うんですけど。


松永 そうそう。ぼくだって、自分大好きですよ。大事すぎるから裏返しで、ひとの感想は「どのようにでもどうぞ」みたいな部分があるのかもしれない。結局、自分しか好きじゃないのかも(笑)


安藤 みんなそうですよね、きっと(笑)。自分しか好きじゃない(笑)。


松永 いろんなことに感じやすいんですよ。そういう意味では、ぼくは結構感じやすい人間みたいで。感じやすいというか、ささいなことでよくおどろくんです(笑)。割とねえ、物理的に「わあ!」って、大きな声をあげちゃうんです。


安藤 「わあ!」って(笑)


松永 「今どき“わあ!”なんて、わかりやすくおどろくひと、あんまりいないよ」とか言われるんですけど。


安藤 でも、ホントにびっくりしたときの声とか、自分でもびっくりしますよね。わたし、おどろくときはオヤジみたいな声なんです。低く「おぅ」みたいな(笑)。「あ、わたしの素はこんなんなんや」と思えてショックでした(笑)


松永 そうか、ひとがおどろくときは素が出てるのか……。さて、名残惜しいですが、そろそろ時間なのです……。


安藤 大丈夫でしょうか、こんな話で。


松永 大丈夫でしょう! あ、でも、現時点での最新作『オレンジ色のスカート』のことを、ちゃんと訊いてないですよね。『Anの部屋』に続くバンヒロシさんプロデュースで。ジャケットも素晴らしい。でも、これは、いちいち本人に中身を聴くよりも、ちゃんとみなさんにアルバムを聴いてほしいです。そして、ぼくの希望としては、こういう作品を年に一枚ぐらいのペースで、どんどん出してほしいです。


安藤 あ、ホントですか? わたしも新しいのを出したいんですよ。「このアルバムを死ぬほど聴いた。次のは出ないの?」っていうお客さんもいらして。昔の曲でまだCDにしてないのもあるし、最近の曲もあるし、いいかたちでまた作れたらいいなと思ってるんですけど。


松永 アルバムをつくるときは、自分はプロデュースされたほうがいいアーティストだと思いますか? それとも……。


安藤 自分でやるかってことですよね。そうですねえ……。最初の2枚は自分でやってましたけど(笑)。弾き語りの場合は、曲としてはプロデュースって要素はそんなにないですよね。


松永 まあ、演奏としては弾き語りでも、バンさんが『Anの部屋』でやったような録音方法のアプローチとかもありますよね?


安藤 そうですね。自分では自分の音楽に近すぎてわかんなくなっているんで、やっぱりバンさんとか、だれかに入ってもらったほうがいいのかも。『ペリドット』でも、作るのはしんどかったけど、いろんなひとに手伝ってもらってすごい楽しかったし、関係も広がったし。


松永 あとは小西さんも言ってましたけど、『オレンジ色のスカート』は、アナログで欲しいですね。


安藤 あー! アナログ!


松永 このジャケットの大きいサイズが、ぼくも欲しいです。


安藤 そうなんですか?(笑)ええ〜?


松永 そこはもう、眉毛出して。大きく出して(笑)


安藤 ハハハハ、全国に大きく眉毛を(笑)


松永 このジャケは素晴らしいですよ。どういうシチュエーションで撮ったんだろうと想像しちゃうくらい。


安藤 ホントですか? カメラマンさんは引きで使うと思ってて、引きのカットばかりたくさん撮ってたんです。でも、デザイナーさんとバンさんの意見は、アップだったんですよ。だけどそのときは、全然アップを撮ってなくて。「アップもちょっと撮って」って注文があって、その少ない中からこれが選ばれたんです。最初、バンさんから「これでどうですか?」っていうのが来たときには、「やめてください、無理です」って言いましたけど(笑)


松永 いやいや、これがいいんじゃないですか(笑)


安藤 最初はホントにこわかったです。もう慣れましたけど(笑)。CDが家に山盛りで届いたんですけど、わたしの顔がいっぱい箱に入ってると思うと、夜とかこわくて(笑)。だから、到着したときにすぐ見たかったけど、開けれなかったんですよ(笑)


松永 是非アナログにしてください。『Anの部屋』は10インチで。あのアートワークの真ん中に穴空けてスリーブにして。かっこいい!


安藤 アナログは、みなどういう感じで聴くんですか? 家で?


松永 まあ、こっそり聴いたり(笑)。外に持ってってかけたり。ぼくもときどきDJやってるんで、アナログ持ってってかけたいなと思います。


安藤 ねえ。おもしろいですよね、レコード出せたら。


松永 今は世界の若者たちもアナログのほうが好きなんで。もし、他の国のひとに聴かせるとしたら、CD持っていくよりも、アナログで持っていったほうが興味持ってもらえると思いますよ。ぼくとしては、『オレンジ色のスカート』は、今はCDのかたちしかないけど、やがてアナログになる運命にある、と言いたいくらいですから。


安藤 おおおー!


松永 こうやって言っておけば、だれかが手を挙げるかも。


安藤 そうですね、なったらおもしろいですよね。アナログかー、だれか聴いてくれるかなー?


松永 大きなアナログになる運命のCD。変身する前のウルトラマンみたいな(笑)


安藤 なんですか、それ(笑)。ウルトラマンって変身前は何なんですか?


松永 人間(笑)


安藤 あ、そうか(笑)


松永 バンさんが言ってましたけど、この『オレンジ色のスカート』は、すでに手売りだけで700枚売れたんでしょ? 今の時代にすごいことですよ、それは。


安藤 そうですか? 今年はライヴもいっぱいやりましたから。ライヴハウスでも「よかったら手に取ってみてくださいね」とかやさしく言いながら、心では「買って!」ってすごく祈ってました(笑)。だから買ってくれたんだと思います(笑)


松永 そこでも念を入れて(笑)。やっぱりこわいひとですね(笑)。ちなみにラジオではこのアルバムからうたったんですか?


安藤 はい。ここから「あいのうた」と「とげとげ」と。あと小西さんからのリクエストで『Anの部屋』から「すてきなキス」を。でも、もお……、やだ、わあー(笑)


松永 オンエア(11月24日放送済)を楽しみにしてます。


安藤 楽しみですか? うわー、もう今からへこんでます。


松永 そう言えば、今さら言うなよって話なんですが(笑)、ぼくはまだ安藤さんの生の歌と演奏を体験してないんですよね。CDや映像ではさんざん見てるんですけど。


安藤 そうなんですよね! 以前に下北沢でおなじイベント(「真夜中の前園直樹グループ」2010年2月10日)でご一緒させていただいたのに。


松永 なんという偶然か、安藤さんが上のフロアでライヴしてるときに、ぼくは下のラウンジでDJで。だから、まだ生・安藤明子はおあずけくらったままなんです(笑)


安藤 是非、今度は見てほしいです。


松永 ぼくもそう願ってます。では、最後に安藤さんの写真を撮っていいですか?


安藤 はい。


松永 ありがとうございました。


安藤 ありがとうございました。


カメラのシャッターをカチャッ。



もう一枚、カチャッ。



テレコのストップ・ボタンをガチャッ。


こうして聞き直してみると、
「あとで訊きます」と言っていた六曜社の話はすっとばしてるし、
現時点での最新作『オレンジ色のスカート』についての話なんか
駆け足すぎて何も訊いてないに等しいし、
雑談というか、
安藤さんがインタビュアーになってぼくのことを訊いてるような場面まであるし。


でも、これはこれでいいのだと思うことにした。
安藤明子が、音楽活動を続けていくことで浴びるであろう注目と、
彼女の淡々と頑固なマイペースぶりのはざまで、
これから語られていくべきことは、まだまだいっぱいあるはずだから。
このインタビューが
彼女の音楽に惹かれたひとにとって
すこしでもお手伝いというか
お膳立てみたいなものになったらうれしい。


後片付けをしながら
安藤さんと高田渡さんの話をすこしした。


六曜社で彼女が働くようになったのは
高田さんがすでに亡くなったあとなので
実際に出会うことはなかった。


だが
彼女がうたう「私は私よ」は
高田渡に全然似ていないのに
高田渡みたいだと思わせる何かがある。


「私は私よ」を
なぞってうたうのではなく、
わたしがわたしであることに
彼女が心から
共鳴しているからなのかもしれない。


あるライヴで
安藤さんが頼まれて
浅川マキの「それはスポットライトではない」を
うたったことがあるという。


その録音を聴いたバンヒロシさんがひとこと。


「『それはスポットライトではない』を高田渡がうたってるみたいや」


それは今
ぼくが心から聴いてみたいと思ってる音源のひとつだ。
今度ぼくがはじめてライヴを見るときに
是非リクエストさせてください。


(おわり)


ふたりで茶でも 安藤明子インタビュー その8


2010年11月18日 渋谷・茶亭羽當にて