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なにかあり/とくになし

いくいくお花ちゃん

マンガ大賞2011」のノミネートが発表された。


日本各地の書店員さんを中心に投票される賞で
本を売る現場の思いに一番近い賞だという見方もある。


……なんて、
時事ネタっぽいのは柄じゃないんですが、
どうしても書きたくなった。


そうそうたるその最終候補13作品のなかに
久住昌之水沢悦子花のズボラ飯」が入っていて
びっくりしたからだ。


もちろん
着想のいい
とてもおもしろい漫画であることは間違いないけれど
“大賞”という言葉の響きからすれば
大抜擢という気もする。


ひょっとしたら
この抜擢は
言葉にこそしないけど
この作品を
わけのわからない事情で葬り去ろうとする
得体の知れないきもちわるい連中に対する
“義憤”ってことなのかもしれない。


そのことを
しいて大きく採り上げたニュースはなかったけれど
Amazonの表記は
取り扱いの予定がないという冷たいものから
「一時的に品切れですが、商品が入荷次第発送します」に
しれっと変更されていた。


このノミネート自体が何らかのプロバガンダであったかどうか
そんな邪推はさておきたい。
いずれにせよ
自分がおもしろいと思う本が
手に入りやすくなるきっかけになるのは
とてもよいことだ。


なぜかそのニュースを見たとき
頭のなかで
岡林信康の「いくいくお花ちゃん」が流れた。
ただしそれは
カーネーションのカヴァーしたほうのヴァージョンで。


話は大賞とは関係ないが
今日、ある30代の男性(あえて名は伏せる)とした話。


「今日「俺節」の下巻買ってかえります」
「ああ、土田世紀の。昔読んでたよ。今まとめて出し直したんだっけ?」
「上中下の“定本”3巻で出てるっす」
「おもしろいだろ?」
「いや、まだ読んでないんですよ」
「読んでないのに、もう下巻買うのかよ(笑)」
「いやあ、1巻だけ買ってやめる漫画ってあるじゃないですか」
「試し買いして、あんまりおもしろくないときね。あるよ」
「1巻だけだったら、まだやめられると思うんすよ」
「はあ」
「でも、「俺節」は名作だっていうから、最初に上、中と買っちゃったんですよ」
「はあ」
「そこまで買ったんだから、最後も買っとこうかな、と」
「最初に3分の2までもう踏み込んじゃったから、もう買うしかないか、と」
「そうなんです。だから今日買って帰るっす」


そう言って
彼は本屋のなかへと消えていった。


その別れ際の姿が
ホラー映画で
行ってはいけないとわかっているのに
妙な使命感に駆られて踏み込んで
最初にパコーンとやられてしまう役のようにも見えた。


ある意味、
それはおいしい役柄かもしれないけれど……。


とは言え
ぼくにも立派に
ミイラ取りがミイラになる資質はそなわっている。


俺節」……、読み返してみようか。
そうウズウズしながら夜道を帰っていたんだから。