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なにかあり/とくになし

マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ その1

今日はヴァレンタイン・デーだというのに
昔の派遣労働の話を書くなんて
ロマンチックのかけらもない!


これから書く話は
だいたい20世紀の終わりから
21世紀のはじまりにかけての
30男のあがきやうめきに関するものです。


では、さっさと話をはじめよう。


朝早くに
品川駅の外で集合で
近くで“軽作業”という情報を言い渡されていた。


おなじ派遣会社から
5、6人集まっただろうか。
点呼係のチーフが人数を確認し、
やがてマイクロバスが来て
ぼくたちは海のほうへと向かった。


現場に着くと
まず服を脱いで作業着に着替えるように言い渡され、
前日にだれが着たのかもわからない
くすんだ色のツナギ的な服を身につけた。


そのまま連れて行かれたのは
居並ぶ大きな倉庫のうちのひとつ。


くらい倉庫の床に
チョークで四角い枠が描いてあり
さらにその外側を取り囲むようにして
番号をふったパレットが十数枚置いてある。


何が起こるのかもわからず
ぼさっと立ってしばし待った。


陣を組んだのは
ぼくとおなじ境遇の明らかにひよわな若者たちと
この現場で長く働いているのであろう
見るからに屈強なひとびと。


しばらくすると
明るい外の光の向こうから
にょきっと触手を伸ばすようにクレーン車が現れ
3メートル四方はあろうかというパレットを
ぼくたちの囲む陣の中央におろした。


ずずーんと低く地面が震える音がした。


パレットに乗っていたのは
お米を10キロ入れた袋にも似たものの集まりで
レンガ塀みたいな感じで積み上げられていた。


よく見ると
その袋は半透明で
外側が白くにごっている。


不意に
袋のなかから
じろっとにらまれた気がした。


え?


もう一度見ると
確かにそれは目玉だった。
何の目玉かというと
イカの目玉だ。


それは
袋いっぱいに詰まった冷凍イカの塊だった。


まさにこれが
西村賢太苦役列車」に出て来る仕事そのものなのだが、
長くなりそうだから
つづきは明日にする。


ほら今日はヴァレンタインだから。
小汚い話やしんどい話は控えめに。


連載のタイトルは
「マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ」にする。
それほど“苦役”でもない仕事もいっぱい出て来るからだ。(つづく)


マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ その1