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なにかあり/とくになし

ぼくのハリウッド・ボウリング その4

初夏の南カリフォルニア
日中は30度前後まで達するが
からっとした気候ゆえ
陽が落ちるとぐっと冷え込む特長がある。


寒いのだ。
はっきり言って。


本田ゆかが呼びかけたように
あのまま踊っていられたら
もっとからだもぬくもるのだろうが、
ただ踊っていればいいという音楽でもないところが
ニッポンの音楽のおもしろさでもあり
むずがゆい感じでもある。


DJテイ・トウワのかける「タイトゥン・アップ」が
ゆっくりとフェードアウトしていった。


いよいよ
本日の主役、
イエロー・マジック・オーケストラの出番かと
寒さを振り払うように
しずかな熱気が客席をひたひたと這い上がっていくのがわかる。


しかし!


暗転した舞台袖に
トコトコと現れたのは
全身黒装束の
いわゆる黒子だった。


正座気味にしゃがみこみ
歌舞伎よろしく
タタタンと打ち鳴らされた“つけぎ”を聞いて
のこのこ出て来たのは
4人の歌舞伎役者に扮した男たち。


三味線と長唄をBGMに
彼らはそのまま
歌舞伎の所作事のひとつである“だんまり”を
演じ始めた。


登場人物たちが
言葉を発さず
浄瑠璃人形のように
非常に様式化された立ち回りを
淡々と演じる、
それがまあ
“だんまり”なわけだが、
ここでそれをやるか。


YMO、32年ぶりのLA登場を期待して立ち上がったファンも
思い切り水を差すこの演出に
どう反応していいかわからない。


しかし、
この演出は
別にぼくたちの気分を逆なでするために用意されたものではないはずだ。


日本の伝統文化を
かたちとしてデフォルメして
こういう場で伝える。
その演出は
現実の日本や、
そこで暮らすぼくたちの日常と対比すれば
失笑ものの勘違いにすぎない。


だが、
その反面で、
勘違いと見えて
実はこれくらいしか思いつかないのだというのが真実で、
「こういう普通な日本が素敵なんですよ」と
自然なかたちで外人に説明する方法を
ぼくたちはいまだに知らないという事実を
見せつけられているのではないかとも思う。


ぎこちない動きの”だんまり”が終わるころ、
遠くにちらっと見えていた「HOLLYWOOD」サインが
闇に埋もれて完全に消えていった。


イエロー・マジック・オーケストラ
この夜
背負わされているものは
思ったより重い。


つづく。