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なにかあり/とくになし

チコク

先週アメリカから帰ってきて
いきなり左の奥歯の詰め物が取れてしまった。


その
新しい詰め物が出来たというので
出掛けに歯医者へ。


治療のため
すこしチコクするかもしれません、と
ハイファイにはメールしておいた。


ところが
意外とあっさり治療は終了。
あと30分くらいは飲み食いをしないでくださいとの注意を受けて
歯医者さんを出た。


これは
チコクせずに済むかもしれない。


ところが
駅前まで来て
阿佐ヶ谷RAREの閉店セールが
昨日から店内商品どれでも「3枚千円」になっていることを思い出した。


ちょっと覗いておくか、と
立ち寄ってみると
すでに店内からは半分ほどの商品が売れてなくなっていた。


店員さんが
「いや〜、昨日(3枚千円の初日)はパニックで〜」と
話し込んでいた。


思い出すのが
一日遅かったか。


それでもせっかくだからと何枚か見繕っていたのだが
ふと目に入ったのが
棚から大量のレコードを
一心不乱に抜き出している中年男性の姿。


その姿に
見覚えがある。
そのひとを知っているのではない。
それはまるで
ぼくがアメリカに買付に行くとき
度を超したバーゲン・セールに出会ったときに
我を忘れてレコードを引っこ抜いている自分の姿だったのだ。


なんだか
自分の欲張りな本性を
鏡でまざまざと見せつけられているようで
淡い期待でふくらんだ気持ちが
急にしぼんだ。


また、あらためよう。
次に来たときに残っていれば
アレとアレとアレを買おう(やはり欲張り)。


結局何も買わずに店を出た。


よけいな道草は回避された。
これは
チコクせずに済むかもしれない。


新宿駅の乗り換えで
そう言えばと思い出し、
宇仁田ゆみうさぎドロップ」9巻(Feelコミックス)を買う。
これで最終巻とはさみしいが
山手線でページをめくる指は止まらない。


そして
よりによって
渋谷駅に着いた瞬間だった。


物語のなかで
「ガーン!」と驚く告白が行われたのだ!


マ、マジですか!


どうしても続きを読み進めたい。
でないと、平常心で仕事できそうもない。


いっそどこかの喫茶店にしけこもうかと逡巡し、
選んだ先が
新装オープンして以来、寄りつきもしてこなかった
「みやしたこうえん」。


コンクリのベンチに座りこみ、
そのまま最後まで読みとどけた。


そして
結局ぼくは
立派に
チコクした。