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なにかあり/とくになし

その25ドルのチケットは世界で一番安い その6

ふたつのスクリーンに映る映像を
巧みに操りながら、
いや、
巧みというほど緻密じゃないのかもしれない、
あやふやで曖昧なシンクロを楽しみながら、
ジョン・ブライオン
ロキシー・ミュージックの名曲「モア・ザン・ディス」を歌っていく。


リズム・セクションは
アジアのどこかの国の
大昔のアマチュア・パーカッション団による
疑似ガムランふうのループ。


長いアウトロに入ると
女性オペラ歌手とオーケストラ指揮者を
浮かんだり消えたりさせながら
ふわふわとした混沌をつくりだす。


やがて
右側に映っていたパーカッション映像が
いつしかフェードアウト。


オペラ歌手と指揮者も
おぼろげな残像を残しながら
ゆっくりとゆっくりと消えていった。


まるで
今はもう生きていない彼らが
この世にさよならをしているみたいに。


そして
すうっと
静寂。


ややあって
ジョンが肩をすくめながら
こちらを向いて笑った。


大拍手。


ミュージシャンが自ら映像機器を操り、
リアルタイムで
映像のマッシュアップだけでなく
トラック制作も同時に行い、
なおかつ
演奏をし、
歌も歌う。


広い世界に
ひょっとしたら
とっくにやっているひとはいるかもしれない。


インタラクティヴとか(ちょっと死語気味だが)、
電子的な実験を前提とした世界なら、ね。


でも
聴き手の音楽的記憶と共感を
こんなにも揺さぶるような実験って
あっていいんだろうか。


……いいのか。
だって
今見ちゃったんだもの。


短く見積もっても
20分以上は続いていただろう「モア・ザン・ディス」を終え、
拍手と歓声とため息をたっぷりと浴びたジョン・ブライオンは、
そのままピアノに向かって
アルバム「ミーニングレス」から
「アイ・ビリーヴ・シーズ・ライイング」を
まったく違うバラード・アレンジで歌った。


倒れ込みそうになるほど
ロマンチック過剰に。


それが本編のラスト・ナンバーだった。


いたずらっぽい笑顔で手を振ると
ジョンはさっさと舞台袖に消えていった。


あれだけのことしでかしておいて、
軽いな〜。
ま、それもいつものことだけど。


つづく。





ツイッターはじめてます。
まだまだ勉強中。