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なにかあり/とくになし

フリート・フォクシーズを、ここで、今日。その2

フリート・フォクシーズのニューヨーク公演まであと2日。
本当ならとっくに手元にあるはずのチケットは
まだ来ない。


待ちかねていると
送り主からなにやら不穏な一通のメールが。


「やあ、
 実はきみのホテルに郵便を届けにいったそうなんだけど
 フロントにだれもいなかったらしくて
 不在配達証明を置いて配達人は戻ってきてしまったという連絡があった。
 どうかフロントに訊いてみてくれないかな。
 それがあればチケットは再配達してもらえるはず」


え?
そうなのか?
フロントの前は何度か通ってるけど
そんなことは言われていないな。


不審に思いつつ
階下へ。


「●●●号室のRyohei Matsunagaだけど
 ぼくあての不在通知届いてないですか?」


眼鏡をかけた黒人のフロントのにいちゃん、
わるいやつではなさそうなんだが、
さして探そうという素振りもなく答えやがる。


「知らんね。
 そういう連絡は聞いてない。
 すぐそこに郵便局があるから直接訊いてみれば?」


うーん。
この素っ気なさ、
確かにこれもニューヨーク流ではある。


いぶかしい気持ちにさらされつつ
道順を訊ね、郵便局へ。


交差点を渡ったところにある
古くて天井の高い建物が郵便局。


郵便物受付のところに
数人の列が出来ている。


見ると
なんだか頑固そうなおばさんが対応している。
よけいなたわごとは聞かんよ! と顔に描いてあるような。
ぼくのすこし前に並んだ紳士は
書面の不備があるらしく
すったもんだの末、脇にどかされて書類のようなものを書かされていた。


不穏だ。


番が来たので
とりあえず必要なことを話した。


「あの、ぼくはそこのホテルに泊まっているんですが
 そこにぼくあての郵便物をここから配達したそうなんですが
 だれもいなくて持ち帰ったらしいんです。
 それを出してもらえませんか?
 パスポートはこれです。
 送り主のメールもあります」


おばさんは
ぼくの言葉をさえぎるように
短く言った。


「紙はあるか?」


どういうわけかないのだと答えると
「それじゃ話にならん。
 ホテルに戻れ」と
トリツクシマもない。


ヨーロッパの出なのか
発音にカクカクとした訛りがあり、
そのせいか
その拒絶っぷりは
ひどく冷淡で重たく感じられた。


うーん。
これって
見事にどうどうめぐりにはまったってことじゃないのかなあ。


小降りだった雨までひどくなり
重い足取りでぼくはホテルに戻った。(つづく)