ゴールド・スターで会った人だろ
音壁男フィル・スペクターが主宰したフィレス・レコードが
1962年から64年までの間にリリースした
オリジナル・アルバムを一枚ずつ復刻してまとめた箱モノが出る。
「フィル・スペクター・アルバム・コレクション」が、それ。
世の中の話題としても
ビーチ・ボーイズの「スマイル・セッションズ」に
余裕で負けてるし、
正直言って
「へえ」と遠目に眺めるくらいのつもりだった。
CDだし。
でも
商品詳細をぼんやり見ていたら
そのなかに知らない作品が一枚紛れ込んでいることに気がついた。
ボックスの正式な枚数は6枚組。
しかし
ボーナスCDが1枚付く。
それが問題だ。
「フィレス・フリップサイズ」と題された
17曲収録予定のそのCD。
当時、シングル盤のB面に収録された
スタジオ・ミュージシャンたちによる
インスト曲ばかりを集めたものなのだ。
ラジオDJが誤ってB面をプレイして
自分の本意でない曲がヒットすることがないようにと
フィレスのシングルの裏面には
おおむね即興のR&B+ガレージ+ジャズとでも言うべき
フリーキーなインストが収められた。
そのうちの一曲が
大滝詠一のラジオ「ゴー・ゴー・ナイアガラ」で有名になった
「ドクター・カプランズ・オフィス」。
それらのレコーディングは
ひとつひとつの曲ではなくて、
スペクターの指示にしたがって
完璧なA面のために
黙々と過酷なセッションを強いられたミュージシャンたちの鬱憤を
思う存分晴らすために必要な時間を
シングル盤の長さの分だけ切り取ったものでもあったはずだ。
それほどのハチャメチャなパワーが
今も盤面か
たぷたぷとらあふれだしそうになっている。
また
そうした演奏は
当時は表だって名前を論じられることのなかったミュージシャンたちの
それぞれの音色やプレイの個性を
大胆にデフォルメして
現代に伝えてくれるものにもなっていると思う。
フィレスのスタジオ(多くはLAのゴールド・スター)を
職人の顔をして闊歩していた彼らの
音楽家としての矜持も怒りも笑い声も
そこには封じ込められている。
P-MODELの名曲じゃないけれど
ぼくならこのボーナスCDに
「ゴールド・スターで会った人だろ」と
邦題をつけるかもね。