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なにかあり/とくになし

銀座の突破口

道に迷った。


昼間に小田急線に乗って一本取材をして、
その足で都心まで戻り、
電源と無線LANのある喫茶店
陽が暮れるまで仕事をした。


本当は
もう2、3本は入稿をしておかなくてはならないのだが、
タイムアップ。


千代田線に乗り
8時半の約束で有楽町へと向かった。


エッセイストで
ルポライター
イラストレーターの
内澤旬子さんが
昨年出版された著書「身体のいいなり」で
第27回講談社エッセイ賞を受賞した、
そのお祝いの二次会に呼んでいただいたからだった。


内澤さんのことは
ぼくたちリズム&ペンシルが
ただ一方的にファンなだけだったのだが、
5月に日本武道館で行われた
忌野清志郎トリビュート・コンサートのパンフを編集するにあたって、
「内澤さんに一本書いてもらいたい!」と決めて交渉をした。


何の面識もないのに
快諾をいただいたうえに
その原稿は
とても素晴らしいものだった。


その縁もあって
記念パーティーにご招待をいただいたのだろうが、
こちらとしても
是非ちゃんとお礼を言いたい。


小雨の降り出した夜の有楽町を歩く。


ところが
どうしたものか
心当たりを見失った。


山手線のガードの近くのはずなのに
あるべきものがそこにない。
気がつくと
もう8時半はとうに過ぎていた。


ガード下を行ったり来たりしているうちに
細い路地に迷い込んだ。
新宿の思い出横町を
もっと細くしたような道に
赤いちょうちんがサイケデリックな灯りを放っている。


この道、
ちゃんと抜けられるんだろか……。


半信半疑で歩を進めた。
軽くカーブした道は思ったよりもずっと短く
あっさり知っている道に出た。


するともう
その目と鼻の先が会場だった。
おお、これが突破口だったのか!


一次会からの内澤さんの移動が遅れていたこともあり
無事に遅刻は免れた。
あらためて原稿のお礼とお祝いのごあいさつもできた。


パーティーでは
内澤さんを取り巻く
いろいろなみなさんがマイクを手に祝辞を述べていらしたが、
それぞれの
ほどよく度を超した物言い(矛盾した表現だが)が
内澤さんらしさと
彼女を親しく思う気持ちをよく表していたように思う。


なかでは
かつて「ヤングサンデー」で連載された
世にも稀なるケッタイなルポ&イラスト企画
東方見便録」の著者、斉藤政喜さんのあいさつが印象深いものだった。


斉藤さんとえげつないアジア・トイレ体験をともにし、
イラストで再現していたのが
若き日の内澤さんだったのだ。


帰り道も、
行きと同じ路地を歩いたが、
行きよりも
ずっと短く感じた。
駅もすぐそこだった。


まあ、人生ってそんなものだ。