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なにかあり/とくになし

男子、異国で昏倒 その3

腹痛発症から何時間経っただろうか。


ベッドのうえで
うんうんうなってはからだを折り曲げたり伸ばしたり、
トイレに駆け込んで
うんうんうなってはからだを前後左右に揺らしたり。


猛烈な痛みが
次々と襲ってくるのだが
お通じの気配はない。


カンチョウ、
2本もしたのに!


リキんでみようとしても
お腹の痛みが大きくて
肛門括約筋まで神経が至らないというのか、
痛みのほうに力が奪われてしまうのだ。


こういうときは
せめて頭のなかだけでも楽しいことを考えようと
昔行って楽しかった場所や
ほしいもの
食べたいもののことを考えてみようとするが、
かえって心身がアンバランスになるばかり。


あとになって
Oさんが先輩の知恵として教えてくれた。


「そういうときはむしろ悲しいことやつらいことを考えるといいんだよ。
 お母さん! とか言って、
 泣きながらふんばるくらいがいいんだ」


なるほど
そういうものかもしれない。
今度からそうしよう。
お母さん、まだ元気だけど。


話は
ちょっと戻って
「カンチョウ、あと2本買ってきたよ!」と
Oさんが部屋に駆け込んでくる前のこと。


これも
ぼくは部屋で昏倒していたので
あとで聞いた話だ。


Oさんの話し相手をしてくれていた男性マネージャーは
ベッドで苦しむぼくのこともかなり心配してくれていたらしい。


「あのカンチョウは結構強力なやつだからな。
 一本で十分だと思うぞ」


それなのに
部屋に様子を見に来たOさんが目撃したのは
すでに2本目もからっぽにして寝込むぼくの姿だった。


それを聞いたマネージャー氏の
目をまるくした顔が忘れられないよとOさんは苦笑した。


「なんだって!
 あれは一本打ったら2時間は間隔を空けたほうがいいんだがな。
 なに?
 もう一本打ちたいって言ってるのか?」


それでも
ほかに思いつく手だてもないので
Oさんとマネージャーはもう一度薬局まで
カンチョウを買いに行ってくれたのだ。


薬局では
おなじ店員が対応してくれて
彼女もさらに目をまるくしたという。


「なんですって?
 あなたのお友達って
 ひょっとして病気じゃなくて
 そういう趣味なんじゃないの?」


異国の地で
伝言ゲーム状態で
知らぬ間に
深刻さと可笑しみの両方をどんどん深める
ぼくの腹痛だった。


あと一回だけ。(つづく)