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なにかあり/とくになし

無理のないダメ男のこと

オーウェン・ウィルソンと言えば
現代アメリカを代表するイケメン俳優とかいう紹介を
今でもときどき見かけるけど
ウソつけ、おら。


彼の最近の
ダメ男役者としての充実ぶりを見ていれば
そんな間違いはしないはずだ。


ぼくにとっては
ウェス・アンダーソン監督の「ダージリン急行」での出会いが最初。
次が
ファレリー兄弟監督の近作「ホールパス」。
そして
ウッディ・アレンの新作「ミッドナイト・イン・パリ」。


その三役に
ほぼ共通して言えるのは
ブロンドで
確かにマスクはいいけれど、
どこか間抜けで
意気地がない
どこにでもいる
なにかが足りない男。


きわめつけは
妙なかたちをした、そのお鼻。
鼻デカに生まれついた者としては
それだけでシンパシーが湧く。


おそろしいことに
誕生日もぼくと3週間しか違わない。
1968年のさそり座。
ぼくも彼も
もうすぐ43歳になる。


彼は
プライベートの不始末でも
よく知られている。


2007年の夏
オーウェン
ケイト・ハドソンに失恋して
自殺未遂を図る。
両の手首を切り
服薬をした。


でも死ねなかった。


死ねなかったことも加勢して
それまでのイイ男キャラから
彼の役歴にダメな中年男が加わった(「ダージリン急行」は自殺未遂前の撮影だけど)。


とにかく
ぼくが好きになってしまったのは
それ以降の(ダメ男を演じるときの)
オーウェン・ウィルソンなのだ。


ダメなことに無理がない。


そのオーウェン・ウィルソン
ひとりで主役を務め仰せたのが
ウッディ・アレンがパリを舞台に撮った新作
ミッドナイト・イン・パリ」。


オーウェンが演じた
過去のパリに思いを馳せすぎて
タイムスリップしてしまう作家志望の中年男は
かつてなら
アレン自身が演じたのかもね。


監督アレンは
さすがのエスプリや皮肉は健在ながら
演出には
昔ほどのシャープなスピード感は見られない。


キャラクター設定や
セリフに込められた比喩も
ずいぶんとシンプルなものになっている。


老境か。


でも
それでいいのだ。
それがいいのだ。


ネタばれになるので
ストーリーには触れないが
夢見る者をやさしく見つめながら
現実というお灸を据えることも忘れなかったアレンが
この新作では
やさしい“忘れたふり”をしてみせる。


オーウェン・ウィルソンというダメ美男子の人生そのものを
アレンはこの映画を通じて
ゆるしてあげているようなところがある。


ビタースウィートな傑作
カイロの紫のバラ」が大好きなぼくには
信じられない結末。
でも
今はそれを信じるのもわるくないと思える結末。


たぶん
この映画でアレンは
自分自身の結末を夢見ているのかも……なんて
書きすぎた書きすぎた!


とにかく
ナチュラルなダメ男
オーウェン・ウィルソン
しばらくぼくは応援することにします。