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なにかあり/とくになし

しなをつくる

「しなをつくる」という言葉がある。


「品をつくる」とも
「科をつくる」とも書くそうだが、
意味としてはどちらもおなじで
「(おもに女性が)なまめかしいしぐさをする」というものだ。


「なまめかしい」と書くと
なんだかエロいテイストだが、
「科」の字のほうの
「山科」とか「更科」とか
「品」の字のほうの
「品(ひん)がいい」とかいう語彙にも感じる
そだちの良さ、恥じらいみたいなものが
隠されているとも思ったり。


その「しなをつくる」ことを
漫画で表現することにかけて
宇仁田ゆみは天才だと思う。


女性のフォルムの描き方が、いいってだけじゃなくて。


すこし前に
知り合いからメールが届いていた。


その文面は
「松永さんは
うさぎドロップ」の結末をどう思いますか?」
というものだった。


詰問ではないけれど
疑問を呈するといったフンイキ。
その質問を見て
あれってやっぱり賛否あったのかなと
あらためて思ったが
忙しい時期だったので
返事をするのをすっかり忘れていた。


メールの出し主である友人は
やっぱり納得がいかないのだろう。


育ての親(大吉)が
たいせつに見守ってきた娘(りん)と
くっついちゃうんだから。


ぼくは逆に感動したのだ。
現代的な常識で言えばアリエナイ話でも
作者が丹念に見届けてきた物語のすじみちとしては
正解だと思えたから。


もっと言うと
登場人物のなりゆきにまかせて物語を動かす
宇仁田さんの作風は
おそらく、結末ありき、じゃない。


彼らの生きる現実のなかで
なにが自然で
なにが不自然で
どこで歯車が噛み合ったり狂ったりするのか、
そのことを誠実に考えているから
ルールではなく
気持ちの道理としてこうなるという落着がいつもある。


それに今は
そこのところの気持ち良さを
常識で押しつぶしてまで
悲劇をつくればいいって時代じゃない。


こう生きなくちゃいけないとか
この気持ち変わらないとかじゃなくて、
なりゆきを誠実に生きる覚悟を持ちたい
というのかな。


とにかく
ぼくはそういうところを突っついてくる宇仁田さんの漫画が好きで
その
なりゆきを誠実に生きるという意志が
描線としての豊かな“しな”にもあらわれているんだと
思うんです。


まるみを帯びて
くねりながらも
まっすぐな線。


新作「青みゆく雪」1巻(ビッグコミックス)は
中国人留学生の男の子と
日本人の彼女との話。


宇仁田さんの視点は
ここでも登場人物のちかくにいて
なりゆきにまかせている。


彼女は今回も
見事に漫画でしなをつくってみせる。