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なにかあり/とくになし

TUCKERとトム先生

日本が世界に誇る
エレクトーン・ウィザード、TUCKERが
ひさびさにリリースするサード・アルバム
「TUCKER Plays 19 Post Cards」が
10月28日に発売される。


ぼくの誕生日に。
しかも
今回は名門CRUE-Lから。


デート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンの新譜が
ジャズの名門インパルスから出るのと
同じような「ほお!」という
意外なうなりと感嘆が口から出た。


もともと
ジャッキー&セドリックスに
おもしろいオルガン弾きが加わってるぞと聞いて
そのヤンチャに飛び跳ねる姿を見たのが最初だから
かれこれ十年以上前か。


その後
TUCKERはソロ・デビューし
名盤「TUCKER IS COMING」(03年)
メジャー・デビュー作「ELECTOON WIZARD」(05年)を
相次いでリリース。


鍵盤だけでなく
ターンテーブル、ドラム、ベース、ギターを
すべてひとりで駆使して
エレクトーンの上に本当に火をつけて弾く
ひとり狂熱のライヴも
ひそかに話題を呼んだ。


そのころ
森山裕之編集長時代の「クイックジャパン」で
頼み込んで取材をさせてもらったことがある。
3ページもくれたのだ。


そのインタビューは
ぼくが今までしてきたなかでも
指折りで記憶に残るくらいのおもしろさだった。


以来、
一緒に遊ぶとか
そういうことは全然ないけど
なんとなくときどき交流がある。


TUCKERが大ファンだというディック・ハイマンのCDの
ライナーノーツにインタビューで登場してもらったこともあった。
ハハハ、
ジャズ・ファンのおじさんたち
TUCKERなんて知らないよねえ。
それも最高に愛にあふれた取材だった。


それと
TUCKERと言えば
トム・アルドリーノの「ブレイン・ロック」だ。


トムがNRBQに加入する前
1970年代初めに自宅の地下室で録音し
一本のオープンリールとして完成させていた(ジャケも)
「Unknown Brain」という作品にぼくが感電感激し、
どこかリリースしてくれるところはないかと持ち掛けていたのを
バンブルビー・レコードが侠気でリリースしてくれたのが04年。


それを取材のときにTUCKERに渡したのだと思う。


あのアルバムのことを
「すごいね」と言ってくれたひとは
すくなくはなかったが、
TUCKERほど熱烈に感激し
自分とおなじ視線で研究し
あれほど愛情を注ぎ込んで宣伝してくれたミュージシャンは
そうはいない。


イルリメと話していたときに
彼の口から
「それ、TUCKERさんに3回薦められましたわ」
という言葉が出た。


それから
TUCKER自身が
ぼくとの話の流れのなかで何気なく
「トム先生」と
口にするのを聞いたこともある。


新作「TUCKER Plays 19 Post Cards」は
エキゾチックな香りの高い旅日記的なアルバムだが
その裏面には
「ブレイン・ロック」の成分があり
トム・アルドリーノに捧げられているとぼくには思えた。


まさか
あれを受け継ぐ者が
出て来るとはね。


トム先生の授業のように
TUCKERは「ブレイン・ロック」を聴いていたんだろう。


新作を
手紙を添えてトム先生に送りたいのだと
TUCKERは言っていた。


トム先生、
あなたの生徒さんが
こんなにかっこいいのを作りましたよと
そのときはぼくも口添えをしたいと思っている。