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なにかあり/とくになし

ヤマザキマリで今一番好きな漫画は?

別のものを探しに行ったはずの書店で
ヤマザキマリPIL」が
平積みになっているのを目撃した瞬間には
ちょっと説明し難いショックがあった。


老人と
坊主頭の女子高生。
彼女の右手にはウォークマン


タイトルは「PIL」。


え? これって
いわゆる“パブリック・イメージ・リミテッド”
すなわち「メタル・ボックス」でおなじみ
あの……?


頭のなかを
妄想が缶入り45回転でぐるぐると回った。
ジャー・ウーブルのベースに
ウーハーが耐えきれずブブブブとハウって
フスマが震えた
高校時代の部屋のなかを思い出した。


その妄想から
実際に手に取るまでは
たぶんコンマ数秒。


「買うしかない」


表紙の見た目のショックが大きかったのは
最近の新刊コミックには書かせない
どなたかの推薦文で焚き付けるオビが
付いていなかったからかもしれない。


これは
オビなしのほうが
インパクトあります。


結論から言うと
「PIL」は
文字通りジョン・ライドンのPILであった。


英国帰りで浪費癖のある祖父と
貧乏に耐えながらパンクを愛して健気に生きる女子高生の
80年代回顧コメディ漫画。


時代設定は1983年と
かなりはっきりしていて、
作者のヤマザキさんの高校時代の実体験を
ベースにしているのだという。


ヤマザキ漫画は
彼女の少女時代をモデルにしたものが多いけど
これはそのなかでも
一番扱いにくい娘だった時期だろう。


音楽的なディテールも
ヤマザキさんより一歳下のぼくにも
かなり飲み込める。


登場するバンドの名前が
現代の高い評価から割り出したものではなく
リアルタイム感のある実名を使っていて、
まあそのぶん
読者層は限定されるかもしれないけど
信頼感はむしろ増す。
意気地も意固地も
しっくりくる。


それにしても
この「PIL」の単行本が出た8月、
ぼくは
土曜朝のテレビ「王様のブランチ」で
偶然ヤマザキさんのインタビューを見ていたんだよな。


テルマエ・ロマエ」の映画化という大きな話題や
同時期の新刊の「地球恋愛」を紹介していたけど、
この「PIL」については
番組は一切触れなんだ。


当たり前か?
くだらん当たり前だね。


ヤマザキマリで今好きな漫画は?」と訊かれたら
今度からは条件反射的に
「PIL!」と答えることにする。
そう決めた。