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なにかあり/とくになし

木が消えた

すでに1本は消えていた。


渋谷駅宮益坂口(東口)の
東急デパートを抜け出たところの
通称“宮益パティオ”(知らねーよ)にあった
2本の大きな木のことだ。


あれ?
ない?


最初は
夜に駅舎に向かう横断歩道をわたるときに
気がついた何となくの違和感だった。


青山方面に向かう
マニアックな待ち合わせポイントとして知られる
ちんまりと立つフクロウの銅像ホープくん」にとって
傘のような役割をしていた巨木が
まず忽然と姿を消した。


ここにあったのが
もともと1本だったのか
それとも2本だったのか察知させないくらいの
さりげなさで
消えた。


そして
買付で2週間ほど不在だった渋谷に帰ってきて、
今度は
がく然とした。


あ、
今度こそ、消えた。


残っていたはずの
もう一本の木も
完全に消えた。


あれほどの巨木を
よくもやすやすと運び出したと感心するが
もともと地下は
地下鉄用の通路が張り巡らされている場所だし、
アスファルト
それほど根深く張り付いていたわけでもなかったのか。


夜ごとに現れる
マチュア・ミュージシャンたちも
喫煙所に群がるひとたちも
なんだか
人目にさらされちゃって
申し訳ない感じがする。


渋谷駅にあった
おくゆかしさというか、
唯一の謙虚な場所が
なくなった。


この巨木撤去は
来る副都心線東横線の合体を見据えたもので、
これを合図に
宮益口の大規模工事がはじまるはず。
これはきっと
毎日の通勤路が
恥知らずなくらい
しばらく騒がしくなる合図なのだ。


それにしても
あの2本の木、
どこに持っていったんだろうか。


案外
実はまだ東急デパートの屋上にいるのです、なんて
「李さん一家」(つげ義春)みたいなそんな酔狂、
ないかー。
ないよねー。